「ふぇっ……ぐすっ……あぁ〜ん!!ママぁ〜!!」
「はいはい!真猿くん、どうしたの?」
「うぅ……ぱんちゅ……おちっこ……」
「あっ……ちゃんと呼んでくれてありがとうね、新しいパンツに替えようね!」
「あ……うん!ママ、しゅき!」
「わたしも真猿くん、だーいすき!」
真猿くんはわたしと猿夫くんの大切な宝物、毎日元気いっぱいでやんちゃで大変な日々を送っているけれど、さんにんで楽しく幸せに暮らしている。けれど悩みはあるわけで。それは旦那様である猿夫くんと真猿くんのケンカが絶えないこと。
「ただいまー。」
「パパ、おかえりなしゃーい!」
「おかえりなさい!あっ、真猿くん、ちゃんとパンツ履いて……ごめんね、すぐご飯の用意するね!」
「あ……う、うん……」
最近、お仕事から帰ってきた猿夫くんにおかえりなさいのキスをしてないからか、彼はとても寂しそうな顔でわたしを見つめてくる。
食卓についても彼は寂しそうな目でじーっとわたしを見つめてる。尻尾はしゅんと垂れていて彼がいかにしょんぼりしているのかがよくわかる。そんな時、横から真猿くんがフォークに刺した唐揚げを差し出してきた。
「ママ、あーん……」
「えっ?あーん……えへへ、美味しいなあ……」
それを見て少しムッとした顔つきの猿夫くんが、箸でとったおかずを差し出してきた。
「……真、あーん……」
「えぇ?あーん……えへへ、こっちも美味しいなあ……」
「……ママは、おれのだ!」
「いいや、俺のだ!」
「……猿夫くん、大人気ないよ?」
そう、毎日このやりとりがあるのだ。お仕事から帰ってきた猿夫くんはとても疲れているはずなのに、いつも家事を手伝ってくれたり真猿くんをお風呂に入れてくれたり、とっても優しくて頼りになる素敵な旦那様。けれどそんな彼のたった一つの欠点、それはわたしへの独占欲。食後もふたりの言い合いは止まらない。
「だって真猿は1日中真と一緒にいるじゃないか!俺だって帰ってきた時くらい真に……」
「くやちかったらパパもこどもになればいいんだよ!」
「ぐっ……!」
「もう……真猿くん、あんまりパパをいじめないであげてね。」
「はぁーい、ねぇママ、今日はママとおふろはいりたい!」
「そうなの?うーん、いいけど……」
「だ、だめだ!真猿は俺が入れる!」
猿夫くんのこの反応を見てピンときた。彼が真猿くんを毎日お風呂に入れてくれる理由……まさか、嫉妬心から来る親切だったなんて……
「大人気なさすぎ……真猿くん、たまにはパパにもひとりでゆっくり入ってもらいたいよね、今日はママと入ろうか。」
「やったぁ!ママとおふろ〜!」
「えっ!?ず、ずるいぞ!俺も真と……」
「はぁ……」
「わ、わかった!わかりました!そんな目で見ないでくれ……」
じとーっと彼を見つめたら、肩を落としながら尻尾をしゅんと垂れさせて寂しそうにとぼとぼ歩いてリビングを出て行ってしまった。ちょっと可哀想だったかな……
「真猿くん、ちょっとパパと大切なお話してくるから、ここで良い子にしててくれる?」
「うん!わかった!」
「ありがとう、ちょっと待っててね。」
猿夫くんのお部屋をこつんこつんとノックしたら、とてもしょんぼりした声で、どうぞ……と返ってきた。そっとゆっくりお部屋に入って、尻尾を垂らして体育座りをしている彼に後ろからぎゅっと抱きついた。
「……寂しかったの?」
「うん……」
「ごめんね……いつもお仕事頑張ってくれて、家事も育児も手伝ってくれてありがとう……」
「それは……当たり前だよ……」
「ううん……猿夫くんが、優しくて素敵な人だからだよ……」
「別に、俺なんて……」
完全に自信を失くしてしまっているようだ。ちょっとやりすぎてしまったかもしれない。仕方ない、魔法の言葉を贈るしかないなあ……
「ねえ、猿夫くん。」
「何……?」
「……あいしてるよ。」
正面から抱きついて魔法の言葉を贈った途端、彼の尻尾はぴんっと伸びて左右にふりふりと動き出した。
「……!!お、俺も、愛してるよ!」
「えへへ、今はだめだよ……そうだなあ、真猿くんが寝た後、わたしのお部屋に来てくれる……?」
「う、うん!わかった!」
「もう……親子だなあ……じゃあ、楽しみにしてるからね。たくさん、気持ち良くしてあげたいな……」
「……!!お、俺も!俺も、頑張るから!」
彼の尻尾は千切れるんじゃないかってくらいぶんぶんと左右に勢いよく揺れている。可愛いんだから……
「ふふっ、可愛い尻尾……また後で、ね。」
彼の頬にちゅっとキスをしてお部屋を後にしたら、彼も勢い良く部屋を出てきて、やっぱり今日はさんにんでお風呂に入ろう!だって。仕方がないなあと彼と手を繋いで真猿くんのところへ行って、さんにんで手を繋いでお風呂場へ向かったのだった。
「ママ、しぇなか、おててとどく?」
「うーん……あっ、洗ってくれるの?」
「うん!おれがあらってあげる!」
「ありがとう、じゃあこのタオルでごしごししてね。」
「うん!ママのちゅぎにパパもあらってあげる!」
「俺も?ありがとう、はぁ……真に似て真猿も可愛いなぁ……」
真猿くんが一生懸命わたしと猿夫くんの背中を洗ってくれた。お風呂は順番に上がってドライヤーで髪を乾かして、寝る支度をして、猿夫くんが真猿くんを抱っこして尻尾を振りながら寝室へと歩いて行った。
「下着……猿夫くんの好きなえっちなやつにしようかな……」
今晩、わたしは自分のお部屋で猿夫くんに抱かれるのだ。彼が大興奮するだろうと紐のような布地の少ない真っ赤な下着に替えて、彼の訪問をどきどきしながら待った。しばらくして、コンコンとドアを叩く音がした。そっとドアを開けるとお顔を真っ赤にして尻尾をぴんっと伸ばした猿夫くんがいた。
「お、お邪魔します……」
「ふふっ、どうしたの?改まって……」
「い、いや、結構久しぶりかな、って……」
「あ……そうかも……ごめんね、あんまり時間取れなくて……」
「そんな……真はいつも俺達のために家事も育児も頑張ってるじゃないか、俺の方こそ、もっと楽させてあげられなくてごめんよ……」
「わたし、家事も育児も大好きだから大丈夫だよ、猿夫くんと真猿くんが毎日幸せいっぱいならわたしも幸せだよ……」
「真……」
「猿夫くん……」
ふたりできつく抱き合ってキスをしようとした時だった。
「パパじゅるーい!!おれもママとチューしゅる!!」
寝かせたはずの真猿くんがわたしにギュッと抱きついてきたのだ。
「真猿くん……!?」
「真猿!?なんで……!?」
「おちっこちたくておきたら、パパがいなくなってたからさがちてた!」
「……!!真猿くん!!おねしょする前にちゃんと気がついて偉いね!!」
「うん!おれ、ママがちょんぼりしゅるのいやだから……」
猿夫くんにそっくりな細い目でじいっと見上げられてなんだかとてもどきどきした。なんて可愛い子なんだろう……わたし達の宝物……
「真猿くん……」
「ママ……」
わたしはしゃがんで真猿くんを抱き上げて、寝かせてくるから待っててね、と彼に告げて寝室へ行ったのだけれど、真猿くんはわたしをガッチリホールドして離してくれなくて、結局今晩の愛の営みはできずじまいだった。
わたし達の宝物
「猿夫くん、昨日は寝ちゃってごめんね……」
「ううん、それよりさ、真猿すごいね、おねしょする前に自分で起きれたんでしょ?成長したなぁって、俺、感動しちゃった。」
「……!!そうなの!!わたしも、すごいなぁってびっくりしたの!えへへ、嬉しいよね……」
「……ところで今夜はどう?俺、明日休みなんだよね。」
「うーん……真猿くんに、ひとりで寝れる?ってちゃんとお話してから決めていい?」
「もちろん、真猿が嫌がったらまた今度にするよ。」