甘酸っぱさには程遠いけれど


「知ってます?」

「主語がない」

「今日はストロベリームーンなんですって」

「なんだそれは」

「一年に一度の月が赤みがかって見えるからそう言われているらしいです。見ると恋が叶うだとか、良い事があるだとか」

「見ただけで願いが叶うなら、俺は毎日見るな」

「一年に一度って言ってるじゃないですか」

「わかったから仕事をしろ、終わらないと安眠は叶わないぞ」

「確かに……」

「俺はひとつでも早く片付けて楽になりたい」

「いつもお疲れ様です」

「わかっているなら、少しは敬え」

「少しどころかたくさん敬ってますよ」

「棒読みで言われてもな……それにしても、赤くは見えないな」

「人には仕事しろっていっておいて、ひとりで月見だなんて上司の風上にも置けないですね」

「風見がなんだって」

「わざと言ってますよね、風見さん大好きすぎじゃないですか」

「気持ち悪い言い方するな」

「言い出したのは降谷さんです……うーん、確かに赤くは見えないですね、残念です」

「普通の満月みたいだな」

「ストロベリーじゃないですけど恋は叶うんですかねー」

「さぁ、そもそも自分で叶えるもんだろう」

「さらっとかっこいい事いうのやめてくれません……?」

「一般論を言ったまでだ」

「はいはい」

「……それにしても、」

「ん?」

「月が綺麗だな」

「……死んでもいいです」

「いや、死んだらだめだろ」

「……ムードも何もあったもんじゃないですね、せっかく乗ってあげたのに」

「何偉そうなこと言ってるんだ、ほら、さっさと仕事に戻れ」

「はーい……」




(冗談として流してくれてよかった……、顔熱い)

(平常心を保て……しかし、あの返答は……冗談としておこう、今はまだ……)
(2018/6/28)

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