トリプルフェイスの始まり


始まりはあの遊園地だったと思う。
その前から黒ずくめの組織を追ってはいたが、一人の探偵が不可思議な現象に巻き込まれたときに物語が始まった。

わたしはとある組織に潜入中の上司から、拳銃密輸を行っている会社社長とその組織の脅迫現場を見張れと命ぜられた。
組織についての詳細は不明、酒の名前をコードネームに使い、黒い烏のような服装をしていることから黒ずくめの組織と通称されている。わたしが憎むべき組織であり、その壊滅が最終目的である。

「取引現場の監視だけでいいですか」

『ああ、目的は現場の証拠を押さえることと、その社長が消される前にこちらで確保することだ』

「わかりました」

『いいか、単独行動の意味を考えろ。お前の役割は情報収集だ。くれぐれも無茶をするな』

上司との連絡を終え、イヤホンマイクをつける。通話先は園の外で待機組の同僚だ。彼のいうこちらとはわたしたち公安を指している。確保した社長から芋づる式に暴力団との繋がりを暴くための久々の尾行任務。失敗は死だ、気を引き締めていかなければ。




ターゲットである会社社長が園に入ったのは、伝えられていた取引時刻よりも大分早かった。待ち合わせ場所に行く前の指示があるのかもしれない。それにしても段々と騒がしくなってきた、遊園地だからという浮かれたものではなく浮足立ったもののようだ。客の話に耳を傾けると、殺人事件と高校生探偵の単語が飛び交っている。高校生探偵といえば、世間で話題の工藤新一のことだろうか。

『内部で別の事件があった模様、警察車用を確認』

「どうやら殺人事件のようです」

困った、これから裏取引が行われるというのに殺人事件だなんて。中止にならなければいい、ターゲットも同じことを考えているらしく不安の表情を浮かべていた。取引相手から特に連絡がないまま、ターゲットは待ち合わせ場所に向かう。離れた場所で様子を伺っていると、少し遅れたが恰幅のいい黒スーツの男が現れた。

「予定通り決行」

『了解』

ターゲットは抱えていたアタッシュケースを黒スーツの男に渡し、男はその中身を確認していた。いい絵が撮れそうだ、カメラを構えて現場を押さえる。ターゲットは大金と引き換えに暴力団との拳銃密輸現場を撮ったデータを渡されていた。これで確保すれば暴力団との関係も暴きやすくなる。目的の物を手に入れたためターゲットはこちらへ走ってきた。全ては順調だった。そう、例の高校生探偵が巻き込まれなければ。
彼が目の前の裏取引に夢中になって背後が疎かになっているのを遠くて見ているしかなかった。わたしの存在が黒ずくめの組織に知られてはならない。これは上司から何度も言われていた守らなければならない最低限の命令。
さすがに拳銃は使われないだろう、まだ殺人事件の捜査で警察がうろついているのだから。殴られたのが見えたので別に警察へ通報し、わたしは逃げたターゲットを追った。
ターゲットを無事に確保し外で待機していた同僚へと引き渡す。そして急いで彼の無事を確認しに戻ったが少年が倒れていたという情報しか得られず、その後工藤新一は姿を消した。組織に消された、そう頭の隅をよぎった。
自分が殺したかもしれない。念のため身辺調査をすると、工藤新一が行方不明になったすぐ後から毛利小五郎という私立探偵が最近事件解決に一役買っている、その人物は工藤新一の幼馴染の毛利蘭の父親である、江戸川コナンという少年が居候し始めた、この三点がわかった。

「お先に失礼します」

「最近自分から残業しませんね、立て込んでいる予定があるんですか?」

「そうですね……ちょっと気になる人ができまして。ほかの人には内緒ですよ、風見さん」

人差し指を口元に当てながら同僚にそう告げて帰路につく。調査には事前準備が必要なのだ。
遊園地で工藤新一が倒れていたところにいたのは少年、工藤新一が消えて少年の江戸川コナンが現れた。思い浮かんだのは馬鹿馬鹿しくてありえないようなことだ。確信の無い話は報告できない、でも思いついてしまったのだから見過ごせない。わたしは倉戸リナとして個人的に毛利探偵事務所の調査を始めた。

これがわたしの最終目標に必要なピースが揃った瞬間だった。
(2018/9/1)

back