ホワイトデー
ばあさんは何でも手作りした。
可愛らしい洋菓子は一緒に本を開いて作った。時々、失敗してふたりで笑ってじいさんを試食係にした。
なつかしいと思える本を引っ張り出し、細かな計量に手を焼く。
「甘ったるい匂いがする」
非常に不機嫌な声で晋助が台所に入ってきた。
「何してやがる」
トゲトゲしい物言いでしかめっ面の居候は寒々しい派手な着物で俺を睨んでいる。
「晋助、お前その格好、寒くねぇの?」
力強くバターと砂糖を混ぜ合わせているとオーブンが出来上がりを知らせる音を鳴らした。
きれいに焼き色のついた甘く香ばしいクッキーを天板ごと台所のテーブルに置き、出来立てのクッキーをひとつ味見してみる。
「うまくいったんじゃね?」
自画自賛している俺に晋助がさらにしかめっ面になった。
「抹茶とココアとかぼちゃだ」
焼き上がったクッキーの粗熱をとるためザルに移し、それを晋助の前に差し出す。
「なんだ」
「江戸チョコのお返しだ」
「いらねえな。甘ぇもんは馬鹿になる」
「ならねぇよ。お前さ、前にも言ってたよな? バカになる、バカになるって何か恨みでもあんの? それにこんくらいの小せえ砂糖でできてるヤツ、あれは食べるじゃねえか」
「あれは茶菓子だ。茶と一緒に食べる物だ。それにそんなに甘くねえんだよ」
「俺のクッキーだって甘さ控えめにしてんだよ。とにかく、江戸チョコのお返しだから、チョコ用意してくれたヤツに渡せよ」
「……俺じゃねぇのか」
「お前が自分で用意するとは思えねぇ、絶対、側近が気ぃ利かせたに決まってる」
言い切った俺に晋助は眉間にシワを寄せてそっぽを向いた。
「誂えたのは来島だが、用意させたのは俺だ」
ボソリと呟いて抹茶のクッキーを一枚、手に取りそれを齧った仏頂面の晋助は、拗ねた小学生みたいで面白い。
「クッキー、欲しかったのかよ」
笑いながら聞いてみれば、険しい視線で睨みつけられる。
「俺の手作りクッキーの味、どうよ。なかなか美味しいだろ?」
ココアとかぼちゃも晋助に勧めてみる。
「……馬鹿になる味だ」
拗ねたままの晋助は、捨てセリフのように言い放ち、お茶の催促をして台所を出て行った。
晋助はふらりと来て、ふらりと帰っていった。用意しておいたクッキーの包みも一緒に無くなっていた。
「ホワイトディの品だ」
翌日、珍しく大きな紙袋を提げて、晋助が居間に入ってきた。
「誂えて用意したのは来島と武市だが、選んだのは俺だ」
「なんの自慢だよ」
今度は負けず嫌いの小学生みたいな晋助に呆れる。
袋の中を覗き込むとせんべいがたくさん詰まっていた。
「しぶっ、渋過ぎだろ。スーパーや商店街のオバちゃんにはウケるかもしんねぇけど、ウチのガッコの女子にせんべいはどうかと」
「甘ぇだけの菓子よりマシだ」
勝ち誇ったように笑う晋助を見て、来島と武市という側近はきっと大変だろうなと思った。
そして、晋助のお返しせんべいは渋い、素敵、カッコいいと大好評だった。
It is over.
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