月夜に謳う

「それはそんなに面白ぇもんなのか?」

 夕食後から読み始めた本が意外に面白くのめり込んで読んでいたら、風呂上がりの晋助が神妙な顔で聞いてきた。

「ああ、何か引き込まれるつうか……いつの間に風呂入ったんだ。全く気がつかなかった」

 濡れた髪をぞんざいに拭きながら晋助が笑った。

「学校の勉学は苦手なクセに本は熱心に読む、なかなか洒落てるなぁと思ってな」
「それって……誉めてんのか? バカにしてんのか?」
「どっちでもねぇなぁ、面白ぇと思ったんだよ」

 髪を拭くのを止めると、晋助はふわりと部屋を出ていった。

「髪、ちゃんと乾かさねぇと風邪、引くぞ」

 小言を言いながらも読みかけのページに目を落とす。物語の先が気になり、どんどんページを進めていくと、ふいに耳に音が流れてきて我に返る。
 聞こえてきたのは、耳慣れない弦の音色。顔を上げれば晋助が三味線を弾いていた。

「晋助、それ」
「ああ、奥の部屋を漁ってたら見つけたんで弾いてみようと思ってな。良い物だ、これはじいさんのか?」
「むかし道楽で習ってたな。でも、じいさんはそんなきれいな音は出してなかった」
「そうか……まあ、その本を読むのに邪魔にならねぇ程度に鳴らすか」

 三味線の音が響く。
 晋助が器用に奏でる三味線はどこか切なくて悲しげに聞こえた。本を読むのにジャマにはならないが、三味線を弾く晋助を見逃すのはもったいない気がした。

「俺に見惚れてどうすんだ」
「見惚れてねぇよ」
「そうかよ」
「笑ってんじゃねぇ」


It is over.

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