歳末大感謝祭
「歳末大感謝祭だ」
「それくらい読めるっつうの、何をやってんだって話だよ」
晋助が座敷でタタミ二、三畳はある大きな白い紙を何枚も広げ、筆と墨を傍らに難しい顔で黙り込んでいる。
着物の袂をたすき掛けでまとめている姿が非常に珍しい。
「だからよぉお前、何やって」
「やかましい。気が散る。ちょっと黙ってろ」
深呼吸するとおもむろに筆を執り、墨に浸すと白い紙に静かだが流れのある動きで『大安売り』と迫力のある文字を書いた。
「晋助、なんか、すげえカッコイイけどよ、書く文字がダセェよ」
「てめえの好きな言葉じゃねぇか」
「バイト? コレがか?」
「ああ、通りの向こうのよく行く商店街だ。金物屋の店主に頼まれた」
大特価、感謝価格、年末大売り出しなどのうたい文句を流麗な文字で書き上げた晋助に茶と菓子を用意する。
たすき掛けを解くと小さく肩を回し、お気に入りのかりんとうをつまむ晋助をまじまじと見つめる。
「なんだ、ときめいたか」
「ときめかねえよ……あー……なんていうか、下世話な」
「全部で三万円くらいか、聞きたかったんじゃねぇのか? バイト代」
「うっ……それは……まあ」
「正月料理でもいいが、俺ァ、美味い豆腐がいい。湯豆腐作れ、千晴」
涼しげな顔で笑った晋助と商店街の金物屋のつながりに疑問を感じながら、その商店街の端にある豆腐屋で湯豆腐を作ろうと決めた。
It is over.
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