バレンタイン/2015

「チョコレートが欲しいです」

 遅番の帰り道、ボソリと天パが呟いた。

「あー……今日はあんまり持ち合わせがないけど、まあ板チョコくらいなら買えるかな? 寄る? そこのコンビニ」

「ちげぇぇぇよ、銀さんが欲しいのはそういうチョコレートじゃないんですぅ、もうじき、あんだろイベントが、チョコレートを渡すイベント、ほら、あそことかそことか見て、怜ちゃんん、ハートがやたらと目につかない?」

 商店街を指さして天パが叫んだ。
 あまり気にしてなかったがそこかしこに赤やピンクのハートが飾られていて、バレンタインとか2・14の文字や数字が並んでいる。

「ああ、バレンタインデーね」

 製菓会社の陰謀企画、何故かチョコレートを好きな相手に渡すという、老若男女が落ち着かない一日を過ごす面倒くさい日。

「あんた、そこそこいろんな人から貰えるじゃん」

「貰えればいいってもんじゃないんだよ。そこんとこわかってる? 怜ちゃん、銀さんは愛も糖分も欲しいんです。欲張りなんですぅ、だから、チョコレートが欲しいです。恋人から欲しいです」

 ぐいぐい詰め寄られ、チョコレートを催促される。

「わかったって、チョコレートね……どんなのがいい? 生チョコとかガナッシュみたいなヤツとかケーキっぽい」

「どうして、それを聞くんだよぉぉぉ、銀さんのことを思っていろいろ考えて選ぶもんでしょうがぁぁ、ああ、もう、ほんっっとに怜は男心がわかってねぇな」

「わかるもなにも俺も男なんだけど……本当、あんたは時々面倒なこと言うよな」

「面倒ってなんだコノヤロー、バレンタインデーはトキメキイベントだ」

 眼光鋭く睨まれる。

「はいはい、愛はいらない糖分をくれと喚いていたのはどこの天パだよ」

「え? そんなアホがどこに?!」


It is over.

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