仕事で疲れた体でなんとか家に帰れば、玄関のドアを開けただけで、いい香りと暖かい光に気が緩む。鍵を閉め、靴を脱いでバタバタとリビングに向かった。リビングと繋がっているキッチンにはエプロン姿で料理しているナマエがいた。

「おかえりなさい、サボくん」

ソファーに鞄を投げて、ナマエの背後に立って、ぎゅっと両腕で抱きしめた。

「あー、癒される」

少し背を曲げて、肩口に顔を埋める。困ったような声を出すが、嫌がっていないのも知っている。

「今日はずっと難しい会議が続いてさ」
「大変だったんだね」
「責任ある立場なのはやりがいがあっていいんだけど、上と下の意見をまとめるっていうのはやっぱり気を遣うし」
「みんな主張したいこともあるもんね」
「それでもみんなオレのこと信頼してくれて任せてくれるって思うと頑張れるんだけど」
「うんうん」
「ただオレも弱音吐きたい時もあるし、あと普通に疲れた」
「それはお疲れ様です」

ナマエの体温と、美味しそうな料理の匂いと、トントンとリズムよく薬味が切られる音と、照明からの柔らかい光。全部がオレの身体から疲労を消していくようだった。

「そういえば、今日病院だったんだよな。どうだった?」
「順調に育ってるって。予定日通りなら、来月にはもう会えるよ」
「いよいよオレも人の親か」
「サボくんは絶対いいパパになるよ。エースくんの子供にも、優しいだけじゃなくてちゃんと叱れるし」
「ナマエもいいママになるな。美人でかわいくて優しいママ」

結婚して3年目でようやく子供ができた。すっかり大きくなったナマエのお腹を撫でてやると、もう1人分の存在を感じる。どんなに仕事が大変でも、ナマエと子供のためなら頑張れると思う。

「そういえば、コアラちゃんから生まれたらすぐに教えてって連絡があったよ。サボくんより先に抱っこしたいって」
「最初に抱っこするのはオレだろ」
「そう思って、それはサボくんと約束してるのって伝えておいた」
「ナマエ」
「なぁに?」
「本当にありがとう。オレと一緒になってくれて」

どれだけ言葉にしても足りない気持ちを伝えるように、ナマエの頬にキスをすると、ナマエは包丁を離し、身体ごとオレの方を向いた。

「キスはこっちがいいな」

そう言って目を閉じたナマエに今度は唇を重ねた。
1か月後、きっちり予定日に生まれた子は元気な男の子だった。その日のうちにエースやルフィ、コアラ、ガープのじいさんはお祝いを持って押しかけてきては、かわるがわる息子を抱っこしてはみんな泣いていた。これからもっと大変だけど幸せな日々が始まると思うと、嬉しくてオレも涙が止まらなかった。

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