長次をはじめ、他の六年にもたまには加減を覚えろと言われるが、私としては何事にも全力でいたい。それは懸想の相手であるナマエに対する気持ちでもそうだ。
「七松くん、また裏山をランニングしてたの?」
「ああ。今度、一年と二年が合同で裏山で実習するからと、体育委員が安全確認を頼まれたのだ」
「廊下で見かけた滝がすごく疲れた顔をしていたのはそれが原因ね。後輩にあまり無茶させたらだめだよ」
校庭で腕立て伏せをしている私に声をかけてきたナマエは困ったような顔をしていた。きっと滝夜叉丸を心配してのことだろう。ナマエは後輩思いで後輩からも好かれる。ナマエを好くのは私一人でいいのにと思ってしまうのは、懸想の難しいところだ。
「ところでナマエ、その手はどうしたんだ?」
ナマエの左手には包帯が巻かれていた。気になって訊いてみるとナマエは私からその手を隠すように背中に回した。
「なんでもない。ちょっとドジっただけ」
「何故隠すんだ?もしかしてかなり酷い怪我なのか?」
「そ、そうじゃないの。ちゃんと善法寺くんに処置もしてもらったし、大したことないから」
手を隠して誤魔化そうとするナマエの行動にもやもやした私は、ナマエが隠した左手を掴み口に寄せた。包帯の上から唇を落とした。されるがままになっていたナマエの顔が赤くなり、ナマエは空いていた右手で自分の口を押えている。
「な、七松くん!」
「早く治るおまじないというやつだ。私はナマエの綺麗な手も、ナマエも大好きだからな。こんな風に怪我をしているのを見ると心配するのは当然だろう」
ナマエに笑顔を見せると、私の掴まれたままの左手はそのままにナマエはその場にしゃがみ込んだ。
「ナマエ?どうかしたか?も、もしかして、私のおまじないが効かなかったのか!?それとも掴んだから痛んだのか?」
「……違うの」
「ん?」
小声で何かを呟いているナマエの声を聞き洩らさないように私も同じようにしゃがんだ。
「この怪我は、七松くんにお弁当を作ってあげたくて食堂のおばちゃんに頼んで料理を練習している時にお鍋で火傷しちゃったの」
「私に、弁当を?」
「中在家くんから今度七松くんが単独の忍務に出るって話を聞いて、七松くんにお弁当作ってあげたいって思った。でも、私料理が結構苦手だから美味しいお弁当作れるようにいっぱい練習してるところなの。お弁当できたら、それを渡して七松くんに好きですって告白しようと思ってたのに。七松くんがさらっと私のこと大好きとか言うし、包帯越しだけど、その、唇触れてドキドキしちゃって、あぁもう、すごく恥ずかしい、穴があったら入りたい」
「それは困る」
「え?きゃぁ!」
しゃがんだままナマエを抱き寄せた。校庭だから下級生の忍たまやくのいちたちが私たちを見ている気配がするがそんなのはどうでもいい。私だって伝えたい想いがずっとあったんだ。
「私もナマエが好きだぞ!大好きだ!」
「っ!さ、さっきも聞いたよ!」
「いーや、何度でも言うぞ。ナマエ、大好きだ!七松小平太はナマエのことが大好きだ!」
ナマエの顔は真っ赤に染まりながらも嬉しそうに笑っていた。後に、全力で好きを叫んでいた私は文次郎たちから小言を言われるのだった。