実習から帰ってきたナマエが医務室に運ばれたと聞いて俺は駆けた。今回の実習は戦を仕掛けては勝ち続けている城の戦力調査と言っていたし、きっといつも通り怪我もなく帰ってくると思っていた。医務室の中には伊作先輩と布団に寝かされているナマエがいた。
「勘右衛門、静かにね」
「は、はい。それより伊作先輩、ナマエの具合は?」
医務室に入りナマエのそばで腰を下した。
「右腕が折れてる。たぶん右足と肋骨にも数本はヒビがは入っているかもしれない。しばらくは絶対安静だよ」
「そう、ですか」
眠っているがナマエの顔はやや顔色が悪くそうに見えた。口に入りそうになっていた髪を退けて頬に触れるといつもより体温が高く感じた。
「少し熱も出ているんだ。痛みもあるからか眠ったり起きたりをくり返していて、ちゃんと眠れてないから、さっき鎮痛剤と睡眠薬で眠らせたところ。僕は新野先生を呼びに行ってくるから、ここは任せてもいいかい?」
「はい」
「ナマエちゃんが起きても責めないであげてね。彼女だからこの程度の怪我だけで済んだし、後輩の子たちもみんな守れたんだから」
「わかってます」
「じゃあ、頼んだよ」
伊作先輩がいなくなり、静かな医務室に二人きりになった。近くには所々血が付き皺になった書物と薬が何種類も置かれていた。書物を手に取むとナマエの字で戦力図が詳細に書かれていた。いつものように頭を撫でてやれば、ぴくりとナマエの眉が動いた。
「……んっ」
「ナマエ」
ゆっくりと開けられた瞼から見えた瞳が俺の姿を映すと、ぽろぽろと涙が零れ始めた。
「勘ちゃん」
「おかえり、ナマエ」
目を擦ろうとする手を握ってやりながら、代わりにその涙を指で掬ってやっても涙は止まらなかった。
「お前がちゃんと生きて帰ってきてくれてよかった」
「…あちこち怪我してるのに?」
「怪我は伊作先輩が治してくれるよ。敵に見つかった後輩を庇ったって聞いた。安心して、みんな無事だよ」
「よかった」
「でも、当分お前は絶対安静だって」
「うん」
「落ち込んだ顔をしない。ナマエの判断は間違ってなかった。ただちょっとお前自身への対価が大きかっただけ」
「まだまだ勘ちゃんみたいに上手くはできないね」
「また一緒に鍛錬しよう、次はもっと上手くいくように」
「そうだね」
「今はしっかり休むこと。俺もここにいるから」
ナマエの眼から涙が止まり、ようやく笑みが見れて俺も少し安心した。布団からナマエが手を伸ばしてきた。
「私が眠るまで手握っていてくれる?」
「お安い御用。なんなら添い寝もしようか?」
「うーん、してほしいけど、伊作先輩に見つかったら怒られそうだから手繋いでくれたら大丈夫。追ってから逃げ切ったと思ったところで木から落ちて意識がだんだん薄くなっていったんだけどね、意識がなくなる前に勘ちゃんの姿が見えた気がしたの。そして私の手を握って「帰ろう」って言ってくれたの。それで気がついたら医務室に寝てて、勘ちゃんが私があっちの世界に行かないように迎えに来てくれたんだって思って、嬉しかったの……すぅ」
それだけ言うとナマエはまた眠ってしまった。ナマエの夢の中まで俺は迎えに行ったらしい。心から好いたお前のことならどこまでも探しに行くし迎えにも行く、だからちゃんと俺の元に戻って来てよね。