クラブチームでの練習が終わって家の近所の公園を通りがかった時、公園から勢いよく出てきた男にぶつかられた。舌打ちすると、男は更に逃げるように走り去った。なんとなく公園の中に目線を向けると、同じ学校の制服を着た女が俯くように立っていた。その姿になんとなく見覚えがあった。

「おい」
「え?あ、糸師くん」

名前までは覚えてないが、たしかミョウジっていう同じクラスの女。俺の方を見てきたその顔は泣いているように見えた。

「今出て行った奴に何かされたのか?」
「え?」
「ここから走ってきた男にぶつかられた。何かされたからのかよ」
「…………たの」
「あ?」
「糸師くんにぶつかった人、元彼なの。フラれちゃった」

ミョウジは足取り重く近くにあったベンチに移動すると座った。

「彼、同じ中学の一つ上の先輩なの。先輩が卒業する時に告白して付き合い始めたけど、私も受験生だしあんまり会えなくて、違う高校だけど私も高校生になったから、これからは高校生らしいデートとかいっぱいできるかなって期待してたのに、同じ高校に通う同級生の子と付き合ってるから別れてくれって言われちゃった。聞いたら私が受験勉強で会えない間もその子とずっとデートとかして、お互い両片想いみたいな感じだったけど付き合い始めたのは最近なんだって。受験生の私に気を遣って別れを切り出せなかったけどやっぱり別れたいって」

まるで独り言のようにミョウジの口から語られる内容にいい気分がしなかった。

「お前はそれでいいのか」
「……先輩のことを思えば私は身を引くべきだっていうのはわかるから」

そう言いながらもミョウジの声が震えて、その目からはぽろぽろと波が零れ始めた。制服の袖で拭おうとするミョウジを見て、エナメルバッグの中から今日の練習で使わなかった予備のタオルを差し出した。

「使ってねぇやつだから安心しろ」
「ぐすっ…ありがとう…」
「ん」

なんとなくタオルに顔を埋めるミョウジの頭を撫でたくなって、子供の頃に兄ちゃんにしてもらったのを真似るようにぽんぽんと撫でてやった。すると、不思議そうにミョウジがじっと俺を見上げていた。

「もう遅ぇし、家まで送る」
「…ありがと」
「家、どっちだ」
「あっち」

そろりと歩き始めたミョウジの半歩後ろを歩いて行く。いつの間にはミョウジは泣き止んでいた。

「糸師くんが思ったより優しくて、涙も止まっちゃった」
「俺が優しいのはおかしいかよ」
「ううん。話聞いてくれて、ありがとう」

俺だってわからなかった。どうして泣いているミョウジを放っておけなかったのか、優しくしてしまったのか。ただ、いつも教室で見かけていたミョウジの笑ってる姿が明日見られないのはなんとなく嫌だと思った。

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