「冴くん、私明日からしばらく日本に帰るね」
「……は?」

ナマエの手料理を食べている最中にふとそう切り出され、箸でつまんでいた肉じゃがを皿に戻した。

「なんでだよ」
「理由は言えない」
「あ?」
「というのは嘘で」
「さっさと話せ」
「お姉ちゃんがこの前生んだ赤ちゃん連れて今実家に帰省してるんだって。その動画送ってきてくれて、見てたらなんか実家が恋しくなっちゃったというか。赤ちゃんにも会いたいしお祝もしたくてね。最近冴くんと日本に帰国する時ってファンとかカメラとか気にして動いてたから、たまには一人のんびり帰省もいいかなって」

幼馴染で恋人だったナマエを高校卒業すると同時にスペインに連れてきてからもう3年。同級生は大学生活を謳歌しているが、ナマエはスペインで生活させている。ホームシックになるのもわからなくもない。もう一度肉じゃがを摘まみ、口に運ぶ。スペインに居ながらもこうして日本料理を食べられているのがナマエのおかげなのは違いないし、そんなことを考えると、ここでこいつの帰省を止めるのは男として器が小さい。

「どのくらい帰るんだ?」
「え?」
「何日くらい帰るかって訊いてんだよ」
「まだこっちへの帰りの飛行機は取ってなくて、たぶん一週間くらいかな」
「帰ってくる日が決まったら教えろ。空港まで迎えに行く。明日も空港まで送るからな」
「ありがとう、冴くん!試合の邪魔にならないように連絡も入れるね」
「連絡は毎日しろ」

嬉しそうにするナマエを見て、たまにはナマエが日本で家族との時間を過ごすのもいいだろうと思った。
翌朝、空港までナマエを送り手荷物検査の前にキスをして見送った。
ナマエは鎌倉の実家に着いたと海の写真を添えて連絡をくれた。それから毎日いろんな写真を送ってきた練習から戻った家で一人それらの写真を見ていて、子供を抱いている写真に思わず指が止まった。ナマエをスペインに連れてきた際、チームには婚約者だと伝えた。ナマエがスペインでの生活にも慣れたら結婚したいと思っていた。もちろん子供だっていつかはほしい。

「あいつ、子供の前だとこんな顔にすんのか」

生まれたばかり子供を見る優しい顔つき、言葉にするなら母性というやつだろうか。帰る家に愛するナマエと子供が待っている未来、今までぼんやりと描いていたものがはっきりと見えた気がした。ナマエには今婚約指輪をつけさせているが、結婚指輪もすでに準備済みだった。ナマエが飾りたいと言ったトロフィー置き場の間に置かれた小箱を手に取った。箱の蓋を開け指輪を見ていると、スマホが鳴り、ナマエから6日後にスペイン着の飛行で帰ってくるメッセージが届いた。

「迎えに行った空港で渡すか」

リビングのテーブルの上に指輪の入った箱を置き、俺はマネージャーに連絡を入れた。6日後、婚約者にプロポーズして結婚するから広報の準備をしておくようにと。

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