本部にあるボクの執務室に入ってすぐに気付いたのは何か物足りない感じだった。デスクに目をやると、いつもボクの来る時間に合わせて淹れてある紅茶がなかった。
「ナマエさん、どうかしたのかな」
同じ海軍本部で秘書部門に勤めるナマエさんはボクの恋人で、毎朝ボクのデスクに紅茶と一言書いたメモを置いていった。顔を合わせる時間はなくても、ナマエさんの優しさを感じられた。
ボクは電伝虫を取って、秘書室にいるであろうナマエさんにかけた。
『……はい』
「おはようございます。ナマエさん」
『コビーくん、おはよう、ございます』
その声は少し怠そうで、どこか元気もない。本部の中ではボクのことを大佐と呼ぶのに、気が回ってないのか二人でいる時の呼び方にドキリとした。
「いきなり電伝虫鳴らしてすいません。今日、いつもの紅茶がなかったのが心配になって、どこか体調でも悪いんですか?」
『…あ、ごめんなさい。昨日の夜、月のものが始まっちゃって、今日も朝から痛みがひどくて秘書室まで来るのに精一杯で』
「そうだったんですね。薬は飲んだんですか?」
『うん。でも効き始めるまでに少し時間かかるから…』
明らかに痛みに襲われて辛そうなナマエさんの声。男にはわからないそれに苦しむナマエさんにボクは何がしてあげられるだろう。
「ナマエさん、この前が休みがいっぱい残ってるって言ってましたよね?」
『?えぇ』
「今日はもう非番にして、ボクの執務室で休みませんか?」
『え?』
「本当は寮の部屋に帰って休むのがいいんでしょうけど、ボクがナマエさんのそばにいたいんです。ただ、今日はボクが非番にできないので、執務室のソファーでよければ横にはなれますし、こっちに来ませんか?」
弱っているナマエさんに甘えてほしかった。ボクにできることはそれくらいしかないと思った。
『コビーくん』
「はい」
『嬉しい、ありがとう。非番の申請したら、そっちに行くね』
「いえ、ナマエさんは秘書室で待っていてください。ボクが迎えに行きますから」
ナマエさんが頷いたのを確認して電伝虫を切った。脱いでいたコートを羽織って執務室を出て、秘書室の方に走って向かう。秘書室で待っていたナマエさんを横抱きにして、本部の中をまた執務室まで戻るボクを見たヘルメッポさんに「本部の中でいちゃつくな」って言われたけど、公私混同も今日くらいは許してほしい。