ナマエはたまたま寄った島で出会ってたごく普通の女だった。海賊のような俺らの世界とは違う、平和で暖かい世界で両親がやってる花屋の手伝いをして、生きてきた女。
腹が減って何を食べるか迷っていたところ、声をかけてくれて、美味い飯屋を教えてくれた。それから島に滞在している間、俺はナマエの元に通った。
最初は海賊だと名乗ると顔を引き攣らせていたが、話していくうちに慣れたのか今では笑ってくれるようになった。俺はナマエの笑顔に一目惚れしていた。
「え?エースくん、明日出航しちゃうの?」
「あぁ」
オヤジが明日には島を出ると言った。ナマエに会えるのは今日が最後だということを告げると、ナマエは眉を下げて悲しそうな顔をした。
「そっか…寂しく、なっちゃうね…」
そんな顔が見たかったわけじゃない。そんな顔をさせたかったわけじゃない。
いつも会うのは海の近くに置かれた人気のないベンチで、今日も俺達以外には誰も居なかった。隣に座ったナマエからは嗚咽を堪えるような声が漏れてきた。
「ナマエ」
「……なに?」
「俺は海賊だ」
「うん」
「欲しいものは力で奪ってきた。だから今から俺はお前を奪う」
「……え?」
「ナマエが好きだ。手離す気なんてねぇ。だからナマエを海へ、平和な世界にいるお前を俺の世界に連れて行く」
「……エースくん」
「一応お前の気持ちも聞きたいんだけど」
俺の言葉にナマエは勢いよく俺に抱きついた。
「私も!私もエースくんが好き、大好き!だからっ!連れて行って私をエースくんの世界に!」
力一杯ナマエを抱きしめたから、たぶん苦しかったと思う。それでも、幸せそうに笑うナマエが俺の腕の中にいる幸せを俺も噛みしめていた。