寝起きのぼんやりとした状態で頭もちゃんと回っていなかった。そう言い訳しようにも、俺の手の中で粉々になったそれを見ると、今はまだ夢の中にいる彼女の悲しむ顔を浮かぶ。
昨日は久しぶりに本部に戻れて、ドラゴンさんの報告だけ終わらせると、恋人のナマエの部屋に向かった。約2か月ぶりの逢瀬。ナマエは俺の姿を見るなり、嬉しそうに抱きついてきた。そしてそのままベッドで身体を重ねた。
目が覚め、水でも飲もうとベッドから足を下して立ち上がろうとした瞬間、足元からパキッと小さい音がした。どうやらそれは脱ぎ散らかした服の中から聞こえたらしく、探してみると粉々になった指輪が出てきた。

「やべぇ」

それはナマエにとって大切な指輪。ナマエは子供の頃に故郷を海賊に襲われ両親を失った。その時に母親が死に際にナマエに渡したのが両親の結婚指輪だった。その指輪だけを持って廃墟の街を歩いているところをドラゴンさんが助けたらしい。家族との唯一の思い出である指輪をナマエはいつも肌身離さず持ち歩いていた。

「復元できる感じじゃねぇな、これ」

指輪についていた翡翠色の石は割れ、リングも歪んでいた。ごく普通の家庭だったから指輪も宝石も高級なものではないと両親は言っていたらしい。古くなり痛んでいたのかもしれないが、壊れてしまっている以上、誤魔化すわけにもいかない。

「ナマエ、起きて」
「ん…サボ、くん?おはよ」
「おはよう」

寝ぼけ眼なナマエの頬にキスを落としてやると、くすぐったそうにした。体が冷えないように布団ごと上半身を起こしてやる。

「ごめん、ナマエ」
「朝からどうしたの?」

手を開いて、壊れてしまった指輪を見せた。

「これ、大事な指輪だったろ?今ベッドから降りようとした時に、踏んで壊したみたいなんだ」
「え?あ、これは違うの。サボくん」
「どういうことだ?」
「たしかに石は割れちゃってるけど、サボくんが帰ってくる前に、ハックさんと魚人空手の練習してる時に受け身を取り損ねちゃって、その衝撃で指輪と石が外れちゃったの。どうやって付け直したらいいかわからないし、そのままポケットに入れてただけなの。だから、サボくんが壊したんじゃないわ」

オレを安心させるように、ナマエは俺の胸元に顔を寄せた。

「それに、これは両親が残してくれたたった一つの指輪だけど、私ね、今欲しい指輪があるの」
「?」
「サボくんが選んでくれた指輪、そろそろ欲しいなって」

甘い声でそう言ったナマエを両腕でぎゅっと抱きしめた。

「一緒に近くの島まで買いに行こう。ナマエに似合う指輪を選ぶよ」
「うん!」
「あと、こっちの指輪も石だけでも綺麗にしてもらおう。何かのアクセサリーにはできるかもしれないだろ」
「ピアスとかにならできるかもしれないね」

向き合って笑い合ってから、ナマエはそっと目を閉じた。唇を重ねると、愛おしさがまた込み上げてきた。
数日後、ナマエの薬指には蒼い石のついた指輪があった。

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