たった一度だけ、ガープ中将のことを訪ねてきた海兵の女の子。たぶんボクと同じくらいの歳の子。一目惚れだった。見惚れていて、彼女が名乗った名前も憶えてなくて、誰かに聞くのも恥ずかしくて、ただ優しい声だったことだけを覚えていた。

「そういえば、新しく本部付きになったっていう秘書の噂聞いたか?」

食堂で昼ご飯を食べていると、ヘルメッポさんがそう切り出してきた。2か月に渡る遠征から3日前に本部に帰ってきたボクには何のことかわからなかった。

「知らないです。そういう話には疎いですし」

「マジか!?コビーと同じ歳くらいって言ってたかな。顔がめちゃくちゃ可愛いのは当然なんだけどよ、なによりやべぇのはコレだって」

そう言いながらヘルメッポさんは胸のあたりで手を揉む様に動かした。

「すごく下品ですよ、ヘルメッポさん。ドン引きです」
「男なら誰でも好きだろ!可愛い顔でめちゃくちゃエロい身体してるってやべぇだろ!」

溜息をついてヘルメッポさんの話を聞きながらしていると、食堂の入口の方が騒がしくなった。そっちに目を向けると、ヒナ大佐と1人の女性の海兵が並んで入ってきた。彼女の顔を見るなり、思わず立ち上がった。

「あ、あっ」
「コビー?」
「へ、ヘルメッポさん、彼女は…」
「ん?さっき話してた噂の秘書だよ。たしか名前はナマエ少佐だったかな」
「ナマエさん」

一目惚れした彼女が急に目の前に現れてボクは固まってしまった。ナマエ少佐はボクに気づいたのか、小走りに近寄ってきた。

「コビー大佐ですよね。初めまして。先日秘書課に配属になりましたナマエです」
「え、あ、その、ボクのこと覚えていませんか?」
「?どこかでお会いしたことありました?」

首を傾げて、ボクを上目遣いで見てくるナマエ少佐の表情に、心臓をきゅっと掴まれたような感覚になる。

「お、覚えていないのなら大丈夫です。これから、よろしくお願いします」
「はい!よろしくお願いします!」

握手をするために差し出した右手をナマエ少佐は嬉しそうに両手で包み込んだ。あたたかくて、柔らかい。そういう気持ちを持ってしまったボクは、彼女の手が離れるのが残念だった。

「ん?」

離れる間際、ボクの手に小さな紙が押し付けられ、握らされた。ナマエ少佐はウインクをしてから、ヒナ大佐の元に戻っていった。ヘルメッポさんに気づかれないようにその紙を開くと、かわいらしい文字が並んでいた。

『お久しぶりです、コビーくん。今日の夜、執務室に会いに行きます。ナマエ』

彼女はボクのことを忘れてなんていなかった。しかも夜会いに来てくれる。今からの仕事は手がつかないかもしれない。

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