海軍が発行している手配書。その手配書に載るのは海賊、革命軍、犯罪者。多種多様お尋ね者がこの世はいっぱいいるが、普通の一般市民であるナマエは、自分にはほとんど縁のない人たち、そう思っていた。両親と営む小さな食堂があるのは海軍本部ニューマリンフォードのお膝元。必然とお客さんの大半は海兵であり、彼らが持ち込む手配書を見る機会は多かった。

「くっそー、いよいよ革命軍の参謀総長にも二つ名だってさ」
「サカズキ元帥、機嫌悪そうだったな」
「“炎帝”だもんな。火拳のエースを思い出させる、ってか、あいつら義兄弟なんだっけ」
「そうそう。それと麦わらのルフィもな」
「B定食とC定食お待たせしました」
「オレ、Bの方っす」
「ごゆっくりどうぞ」

テーブルで待っていた海兵に注文の定食を届けたナマエは定位置であるレジに戻り小さな椅子に座った。お昼時を過ぎて、客もそんなに多くない時間。レジを確認すると、おつり用の硬貨が少なくなっていることに気づいた。

「ママ、おつりが減ってきてるから両替してもらってくるね」
「わかったわ。あ、帰りに林檎も買ってきてちょうだい。夜のデザートの分まで足りそうになくてね。ナマエもおやつに食べたいの買ってらっしゃい」
「林檎ね。じゃあ、いってきます」
「気を付けるのよ、ナマエ」

愛用のカゴと財布と両替用のお金を持ってナマエは食堂を出た。
両替を済ませ、八百屋で林檎を買ってから戻る途中でナマエの前に立ち塞がったのはガラが悪そうな男が5人。海賊とまではいかないにしても、海軍のお膝元のこの街にも荒くれ者はいる。

「嬢ちゃん、持ち金全部置いてってもらおうか」
「それとも嬢ちゃんをヒューマンオークションにかけて金にしてもいいんだぜ」
「っ」

最近女の子の連れ去りが横行してるって聞いてたけど、こいつらがなんだとナマエは思った。それと同時に、恐怖で身体が固まってしまった。男たちが構えているナイフを見て、更に息ができなくなる。

「いや……誰か助けて…」
「誰も助けになんて来ねぇよ」
「そいつはどうかな……火拳!」
「!」

一瞬のことだった。ナマエの身体に背後から腕が回されたかと思うと、地面から足が離れ、空中で浮いたまま、ナマエが立っていた場所には炎が広がっていた。近くの建物の屋根を跳び超えていきながら、ナマエは食堂の裏手に下された。いろいろなことが起こりすぎて、腰が抜けたナマエは地面にぺたりと座り込んだ。

「大丈夫か?どっか怪我したか?」

ナマエに目線を合わせるようにしゃがんだのは金髪の男だった。服を見たら海軍の制服だった。海兵だと思ったが、彼の顔の左目にある火傷の痕にナマエは見覚えがあった。

「あなた、革命軍の参謀総長?」
「え?」
「“炎帝”サボ、手配書で見たことある」
「海軍の制服着てても顔でバレるならもう潜入は厳しいな。とりあえず、君が無事でよかった。いくら海軍本部の近くだからって、君みたいなかわいい女の子が一人で出歩くと危ないぞ」

まるで妹に言い聞かせる兄のような口調でそう言いながら、サボはナマエの頭を慰めるように撫でた。手配書より実物の方がかっこいいとナマエは純粋に思った。次第に顔に熱が集まっていった。サボの目線から逃げるようにナマエが顔を反らすと、サボはすっと立ち上がった。

「君んちの食堂の飯は美味いし、こっそり食べに来るからその時は内緒にしてくれよな」
「はっ、はい!」
「じゃあ、またな」

そう言い残してサボはまた屋根の上を跳びながらどこかへ行ってしまった。残されたナマエは胸の中に芽生えた気持ちに戸惑いながらも、あとでサボの手配書をこっそりもらえないか聞いてみようと思った。

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