一目見て好きだと思った。だから奪った。海賊だから、それが当たり前だと思った。
「あの子、今日も何も食べなかったよ、キャプテン」
「…そうか」
落ち込んだ様子のベポが手つかずの食事のトレイを持って食堂に戻ってきた。トレイの上にはすっかり冷えてしまった夕飯が乗っていた。
「また眠ったら点滴するの?」
「死なれちゃ困るからな」
「キャプテンが口下手で人相も悪いから怯えてるだけじゃないんっすか?」
「なんか言ったか?シャチ」
「まぁまぁ、キャプテンも落ち着いてくださいよ。でも、たしかにあの子にもうちょっと状況説明はしてあげてもいいかもっすよ」
4日前たまたま補給で立ち寄った小さな島だった。港の木陰にあるベンチで読みかけの本を膝に置き、眠っていたのがその女だった。どこにでもいる普通の女だと思ったが、何故か心臓がやけに早く脈打ち、気づいたら抱きかかえてポーラータンク号に戻っていた。船長室のベッドに寝かせ、ベポたちに出航を急がせた。
「起きてももう船は海の中だ。逃げられないな、お前」
眠ったままの女の頬を撫でた。それだけで気持ちが満たされた。
目が覚めた女の戸惑いと恐怖に怯えた顔に心が痛んだ。オレが攫ったこと、すでに島からは離れていること、海の中を進む海賊船の中であること、一通り話してやったがまともに聞ける状態ではなかった。
「…私を解放して」
「それはできない。お前はオレと一緒にいてもらう」
女は最後の抵抗のように食事を摂らなかった。代わりに眠っている間に最低限の栄養剤を点滴にして補給させた。夜はオレが抱きしめるように眠った。この女を抱き枕にしてから安眠が続いていた。
「せめて、名前くらい聞いておけばよかったな」
今日も抱きしめながら寝落ちる寸前に、まだ名前すら聞き出せてないことを思い出した。どんな名前なんだろうか。オレが呼ぶことをこいつがどう思うか。
「………ナマエ」
「!?」
腕の中で女の声がした。聞き逃しそうなくらい小さな声だった。
「ナマエ」
聞こえた名前を口に出してみると、ナマエは小さく頷いた。初めてオレの言葉に返ってきた反応に、またじわりと胸が熱くなった。
「好きだ、ナマエ」
思わず口から零れた言葉に、腕の中でナマエの身体がピクリと動いた。少しずつオレが変われば、こいつの気持ちも振り向かせられるかもしれない。そう思いながら眠りについた。