たまに電車の中で見かける彼のことが気になり始めたのは、冬服になりはじめた11月初旬のこと。
学ランの前を開けている活発そうな黒髪の男の子と、ブレザーの金髪の彼。今日も私が立っているドア付近に、2人も並んで立って話している。聞こえてくる会話から、彼らは学校こそ違うが、かなり小さい時からの幼馴染ということを先日知った。

「エースの方は小テストどうだった?」
「いつも通り赤点コースだな」
「自信満々に言うことじゃないだろ、まったく。あれだけ勉強教えてやったのに」
「教えても無駄だってわかってんだろ、サボも。もし赤点でも何回か補習に出席すればいいってさ」
「よくそれで許されるな」
「お前の方は?」
「総合では1位取れたけど、何教科かは順位落ちてた。期末は全部取るつもりでやるさ」
「すげぇな、ほんと」

エースと呼ばれた黒髪の彼は勉強が苦手だけどスポーツ万能で友人が多く、サボと呼ばれた金髪の彼は勉強もスポーツもできる万能タイプらしい。
私は持っている参考書で顔を隠しながらも、たまに目線で金髪の彼、サボくんを盗み見していた。2人ともその辺のアイドルよりも全然かっこよいいと思う。たぶん学校でも相当モテる方に違いない。そしてサボくんの方は私の理想の男の子そのものだった。でも彼女になりたいとかそういうのはなくて、アイドルに憧れるファンのような気持ち。
そんなことを考えていると、突然電車がブレーキをかけ、私はバランスを崩し倒れそうになった。

「あぶないっ」

そのまま床に転ぶと思い、衝撃に怯え目を瞑ったが、予想していた冷たい床の感覚はなく、自分の体に回された腕の感覚にゆっくりと目を開いた。

「大丈夫か?」

頭の上から聞こえたのはサボくんの声。私はサボくんに片腕で抱きしめられるような形になっていた。
電車内には緊急ブレーキを謝罪する車掌の声と、文句をいう乗客の声も上がっていたのに、私の耳はサボくんの声だけを拾っていた。

「助けて、くれて、ありがとうございます」
「無事そうでよかった」

サボくんの腕から解放されて一人で立つも、恥ずかしさと緊張で顔を上げれないでいると、エースくんが話かけてきた。

「お前、たまに同じ電車になるよな。その制服って○女のだろ?やっぱ○女はかわいい女子いるなってサボと話してたんだよ」
「おい、エース」
「なんだよ、本当のことだろ。○女って言ったらこの辺でも頭いいし女子がすげぇかわいいって有名じゃん」

サボくんはエースくんの口を塞ごうとするも、力が互角なのかなかなかできずにいた。やがて諦めたように手を離して、申し訳なさそうに私の方を見た。

「なんかごめんな。エースが変なこと言っちゃって」
「いえ。たしかに私の友達にもかわいい子いますし、よくナンパされるって聞きますから」
「君もよくナンパされるの?」
「私はそんなにかわいくない普通の一般人なので、そんなナンパなんて!あ、でも道を聞かれることはよくあるから、話しかけやすい人間なんだけだと思います。お礼にお茶でもって言われてはお断りしてますけど」
「ナンパじゃんか。サボ、あんまりのんびりしてっともってかれちまうかもよ」
「そうだな。あのさ」

真剣な目をしたサボくんはポケットからスマホを取り出した。

「オレはサボ。ずっと君のことが前から気になってて、連絡先交換したいんだけどいいかな?」

サボくんの後ろでニヤニヤしながらこちらを見ているエースくん。手が震えそうになるのを抑えるように、私もスマホを取り出した。

「わ、私はナマエって言います。私で、よければ是非お願いします」
「ありがとう。オレはキミと知り合いになりたいんだ」

ほっとしたようなサボくんをエースくんが笑顔で背中をバシバシと叩いていた。なんだかすごく痛そうな音がしてるんだけど大丈夫かな。メッセージアプリに追加されたサボくんのアイコンをじっと見てると、心臓がすごく速く動いていて、顔も熱い。再び動き出した電車のように、私の恋も少しずつ動き始めたのかもしれない。

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