マンションのベランダに出て空を見上げると白い満月が輝いていた。もう長袖1枚の部屋着では少し肌寒い11月。そろそろ起毛の部屋着を用意しないといけない。そんなことが頭を過りながらも、隣に並んでいつも一緒に月を見てくれたサボくんが今はいない。
「エースと少し世界を見てこようと思うんだ」
4年目の大学生生活が始まろうしていた矢先、サボくんはデート中にそう私に告げた。
「世界?」
「そう、世界。オレ達のまだ知らないことが世界にはたくさんあるよなってエースと話しててさ、じゃあいっそのこと世界を見に行こうぜって」
「えっと、急だね……大学はどうするの?」
「休学届出した。ゼミの方も教授に話して、卒論もだいたい出来上がってるからそれならいいんじゃないかって」
「お金は?」
「先月オレ全然いなかったろ?あれ、泊まり込みでエースと建築系のバイトしてたんだよ。あとは現地で働いたりしてたらなんとかなると思う」
サボくんは思い立ったら行動までが早い。それは兄弟同然で育ったエースくんも同じらしく、私が知らないところで2人は世界を見に行くことを決めていたらしい。
「私のことは?」
「ナマエには寂しい思いさせるかもしれないけど、ちゃんと連絡するから」
ショッピングモールで人がたくさんいるというのに、足が動かずその場に立ち尽くして俯いてしまった私をサボくんは優しく抱きしめてくれた。止めきれずに目からぽろぽろと零れていく涙が、サボくんの洋服の胸元に染み込んでいった。
「勝手に決めてごめん」
「……」
「でも、オレはもっといろんなことを知って人間として成長したい。ナマエとの将来のためにも、今の環境での経験や知識だけではダメだと思うからさ。だから、泣くなよ」
「…サボくんが泣かせたんだよ」
「オレがいないからってナマエが浮気したら、オレも泣くかも」
「そういう脅しはよくないと思う。それに浮気なんてできないよ。サボくん以上にかっこいいって思う男の子はいないから」
「嬉しいこと言ってくれるな。離れていてもオレはナマエのこと想っているから。帰ってくるまで待ってくれ」
私は顔を上げてサボくんを見上げた。優しい笑顔はいつものサボくんだった。
「満月の夜、晴れていたらその月を見てくれ。オレもそうするから」
「月?なんで?」
「ナマエは月、好きだろ。遠く離れていても、月はオレにもナマエにも同じに見える。うまくは言えないけど、同じ月を見てる時間があるって思うと、離れているのにナマエの存在を近くに感じると思うんだ」
サボくんのその言葉どおりに、こうして満月を見上げている。隣にサボくんはいないのに、月の光が大好きなサボくんの笑顔のように優しく柔らかく私を照らしていた。今朝ポストに届いていたエアメールには、どこかの海で船に乗って楽しそうなエースくんとサボくんの姿の写真と、『年明け前に帰る』の文字。1人で月を見上げるのもあと数回かな。