潜入で来ていた島は秋島ということもあって、比較的過ごしやすい天候だった。夜、拠点にしている部屋に帰るとナマエの姿がなく、気配を追うと、海の方に見えた。屋根を飛び移りながら海に向かう。入り江の岩場のところにナマエはいた。岩場に座り、靴を脱いだ足を溜った海水に浸して、ぱしゃぱしゃと動かしている。

「ナマエ」
「サボくん」

ナマエの横に腰を下ろす。メラメラの実を食べて能力者になったオレに海水は弱点でしかなく、ナマエみたいに足をつけることはできない。

「宿にいないから驚いた」
「街に人に聞いたの、今日は満月なんだって。私の育った村では満月の夜だけ海で月明かりを頼りに漁をする人たちがいてね。それは月の神からの恵みだってことで、村のみんなで感謝しながら食べる習慣があったの」
「へぇ」
「それを思い出したら海に来たくなって」
「なるほどな」

ナマエの育った村は隣国との戦争に巻き込まれ壊滅したらしい。穏やかな温かい村だったと、ナマエは時折懐かしそうに話す。オレはナマエの肩に腕を回し抱き寄せた。

「お父さん、お母さん、お姉ちゃんもいなくなっちゃったけど、今はサボくんやコアラちゃん、イワさんやドラゴンさん、革命軍のみんながいるから大丈夫。寂しくないってわかってる」
「ナマエが育った村は優しい村だったんだな」
「うん」

オレの育ったゴア王国とは違う。戦争がナマエから大好きな優しい故郷を奪った。

「いつかオレが連れて行ってやる」
「え?」
「ナマエの故郷に。オレもナマエの育った村を見てみたいし、ナマエもまた家族の墓参りしたいって言ってただろ。それにナマエの両親とお姉さんにもちゃんと挨拶しておきたいしな、婚約者のサボですって」
「サボくん」
「行くなら満月の日にするか。オレはもう海には入れないけど、きっと綺麗な海なんだろな」
「綺麗だよ、すっごく」

ナマエはオレの腕に自分の腕を絡めて、ぎゅっと身体を寄せた。しばらく二人とも何も言わず、打ち寄せる波の音を聞いていた。

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