能力で侵入したその部屋は、主の帰りを待つようにしんと静まりかえっていた。鬼哭を窓際に立てかけ、帽子を綺麗に整理されたデスクの上に置いた。明りを点けずとも、窓からの月明かりが部屋を十分照らしていた。
靴を脱いでベッドに上がり、背中とベッドボードの間に枕を挟み、読みかけの本を取り出して目を通す。ベッドに上がって気づいたが、どうやらシャンプーを替えているらしい。

「柑橘系か。悪くないな」

シャンプーをしている姿を脳内で想像して、思わず口元がにやけた。

「じゃあ、ナマエまたねー」
「うん!また明日ね」

30分ほど経ったあたりでドアの前に人の気配を感じ、本を閉じて気配を殺す。ガチャと鍵の音がして、ドアが開いた。部屋に人がいると思ってないらしいそいつは、ドアを閉じるとしっかりと施錠した。

「シャンブルズ」
「っ!きゃっ」

能力を使い、デスクから拝借しておいたペンとドアの前の人物を能力で入れ替える。オレの腕の中には白い海軍の制服を身に纏った女が落ちてきた。

「久しぶりだな、ナマエ」
「ト、トラファルガー・ロー!」

オレの存在に気づくなり、ナマエはオレの腕から逃げ出そうとした。しかし、オレは体格差でその抵抗を抑えつけた。ベッドで仰向けに押し倒し、首筋に顔を寄せる。

「チッ、もう消えてやがる」
「舌打ちしないで。痕もつけないで」
「ダメだ。オレの女だとわかるようにしねぇと」

二週間前につけたキスマークは消えてしまっていた。もう一度上書きするように同じ場所を吸い、赤くなったそこを舌で舐める。

「んっ、ふぅ」
「これだけで感じるのは早ぇぞ」
「…トラファルガー、もうやめて」
「名前で呼べ。あと、お前が海軍を辞めてオレの船に乗るなら今すぐ止めてやる。そろそろ大人しく奪われろ、ナマエ」

オレの言葉にナマエは首を横に振った。それでいい。首を縦に振らないでくれてよかったと安心している自分にも反吐が出る。
オレが初めて欲しいと思った女、ナマエは海軍本部所属の大佐。手に入れたいのに、手に入ってほしくない。こいつはそんな軽い女じゃない。守るべき市民を、背負った正義の信念のもと、貫く女。だから惚れた。柄にもない恋に落ち、仲間にも秘密で通い続け、もうすぐ1年になろうとしていた。

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