新学期が始まって三日。まだ新しいクラスメイトの名前と顔が一致しきれない時期。俺は強烈なインパクトを与えらた。
最初の英語の授業は、一年で習ったことを確認する簡単な小テストだった。制限時間は二十分、終わって隣の席の奴と交換して採点。隣の席になったのはたしかミョウジって名前の女子で、去年は違うクラスだった。テストの内容はほぼミスなし、結構頭いい奴なのかもしれない。そう思っていると、テスト用紙の裏に何か書いてあるのが見えた。
「『素敵な恋がしたい』ってなんだこれ」
「なっ!」
小さな声で書かれた文字を読むと、ミョウジが勢いよく俺の方を振り向いた。その顔は驚きと恥ずかしさがいっぱいって感じだった。ちょっとかわいいと思った。
「それはっ、二年生になった意気込みというか、目標的な、その、心の声ってやつで!」
「うるさい、わかったから。でもいくら回収されない小テストだからって、心の声書くとかは止めたほうがいいと思うよ」
採点し終わったテストを返しながら、意地の悪いことを言ってみると、ミョウジから勢いよくテストが返ってきた。ミョウジは俺からテストを受け取ると、顔を俺から隠すように机に俯いた。
「もうやだ恥ずかしい」
「見つけた俺も結構恥ずかしいんだけど」
「新学期早々恥ずかしさで穴が有ったら埋まりたい衝動が止まらない」
よほど恥ずかしいのか、顔は見えないけど、ほんのり赤い耳が見えている。笑うのを少しこらえながら、ミョウジが採点してくれた自分のテストを見返した。ミョウジより少しミスは少なく、九割正解、復習のテストとしてはまぁまぁだな。そう思っていると、下の方に赤ペンで何やら書いてある。
「『白布くんって頭いいんだね!すごい!』」
「はっ!それは!」
「ミョウジって予想以上におもしろすぎ」
「うぅ、ほんとに埋まれる穴が欲しい…」
「じゃあさ」
俺はミョウジの方を向き、まるで悪魔の提案を持ちかけるように訊いた。
「俺と、素敵な恋してみるってのは、どう?」
俺の言葉を聞いた瞬間、ミョウジは勢いよくこっちを向いた。言葉にならない何かを言いたそうにぱくぱくと開く口と、真っ赤な顔のミョウジが、改めてかわいいと思った。