正直油断してた。海軍の中にも手練れはいるが、今まで何回か潜入しても負傷することなく任務を終えていたし、しかも今回潜入したのは情報部の基地。戦闘向きな海兵は少ないと、今回も大丈夫だろうと思っていた。それが甘い考えだった。奪った海軍の制服を着て基地の中を歩いていたら、情報部らしく一人の海兵がオレの顔を見たことがないといい、あっという間に正体がバレて追われる破目になった。そして逃げている最中に、物陰から腕を刀で斬られた。
「くそっ」
斬った海兵を倒し、近くにあった部屋に入る。止血しないとまずい。逃げ込んだ部屋はどうやら私室のようだった。部屋の主が不在で助かった。畳んで置かれていたタオルを細く千切り、斬られた腕の上を固く結んだ。止血はできた。おそらく近くにきているだろうハックとコアラにどう連絡を取ろうか考えていると、部屋のドアが開いた。
「珍しく基地内が騒がしいけど、何かあったのかな?きゃっ」
オレはドアを開けた人物を中へ引き込み、ドアに押し付けた。海軍の服を着た女だった。こいつが部屋の主か。
「んー!んー!」
「黙ってくれ。別にキミに危害を加える気はない」
恐怖からか女の目には涙が浮かんでいて、申し訳ない気持ちになった。
「オレが出ていくまで声をあげないと約束してくれるなら解放する。できるか?」
こくこくと女が頷いたのを見て手を離した。女は腰が抜けたかのようにその場に座り込んだ。
「彼方がこの騒ぎの原因?」
「ああ、そうだ」
「革命軍、参謀総長、サボ、そうでしょ?」
「ああ」
この女も海軍だ。革命軍はこいつらの敵だ。声を上げて他の海兵を呼ばれる前に気絶させておくべきだな。そう思って手をあげようとしたら、女の目が血に染まった腕に向けられた。
「腕、斬られたの?」
「ああ」
「手当しなきゃ。たしかデスクの引き出しに止血剤と痛み止めが……立てない」
やっぱり女は足に力が入らないらしく立てずにいた。
「デスクの右の一番上の引き出しに小さい箱が入ってるから持ってきて。で、ここに座って」
女は自分の前を指でさしながらオレに指示した。手当してくれるならと、オレは言われた通りにデスクから箱を取り、女の前に座った。女は箱を開けると、中からハサミを取り出し袖を切った。綿で薬を塗り込み、テープを貼り、オレに錠剤を渡した。
「痛みが出たらこれを飲んでね、痛み止め。タオルはもう取るね。あーあ、このタオルお気に入りだったのに」
「ごめん」
「斬ったのはうちの海兵だし仕方ないね」
海軍らしくない海兵だと思った。オレを見ても一心に敵だと判断せず、手当をしてくれた。なんとなく興味が湧いた。
「名前を聞いてもいいか?」
「私の?ナマエよ。階級はこれでも少将やらせてもらってます」
「少将!?」
「あまり大声出すと傷に障るよ。今日は見逃してあげるから、もう行った方がいいわ。その窓から屋根に上がったら、そのまま屋根沿いに海まで出れるから、仲間とも合流できると思うよ。革命軍の船をそこの入り江で見かけたから」
「捕まえないのか?オレたちのこと」
「私は誰かを捕まえたくて海軍に入ったわけじゃない。みんなを守りたくて、誰も傷つかない世界のために海兵になったの。だから革命軍は私の敵ではないし、彼方も敵じゃないよ、サボさん」
床からオレを見上げたナマエの笑顔が綺麗だと思った。こいつが少将になるまでその正義を貫くのは容易くなかっただろう。ますますオレはナマエのことが知りたくなった。窓を開け、縁に足をかけて振り返る。ナマエはドアの前で立っていた。
「ちゃんと逃げてね」
「ああ」
「ナマエ、今度はお前に会いに来る」
「え?」
「じゃあな」
足に力を込めてそのまま屋根に上がり、月が照らす屋根を走りながら海へと向かう。きっとまたナマエに会えることを祈りながら。