ナマエの様子がおかしかったのはここ数日前からだった。食事の途中だというのに眠そうな目をしていたし、廊下にしゃがみこんで眠ってしまっているのをイッカクが見つけ、部屋に運んだらしい。他のクルーもナマエの異変に気づいているようだった。
「キャプテーン!ナマエが起きないよ!」
ベポが慌てた様子でそう言いながらオレの部屋に飛び込んできた。ベポに腕を掴まれ、引っ張られるように女子部屋に向かうと、部屋の前には他のクルーもいて、心配そうに女子部屋の様子を伺っていた。
「イッカク、様子は?」
「あ、キャプテン。昨日の夜もいつもにも増して眠そうだったから、早く寝なよって言ったんです。けど、朝になって身体揺すったりしても起きなくて」
「そうか」
ベッドで眠るナマエの傍に立ち、能力を使ってスキャンしてみるが、身体にも異常は見られなかった。
「何か変な物でも食ったか?」
「ナマエはそんなことしないわよ」
「悪い病気とか、もしくは悪魔の実の能力の何か的なやつだったり、しないっすか?」
「こいつがピンポイントで狙われる意味が分からないな。今はできることもねぇし、起きるのを待つしかないだろ。とりあえず寝かせておけ」
女子部屋から全員が出て、そう告げるも、誰一人心配そうな顔をやめなかった。
それから一週間、ナマエは目を覚まさず眠り続けていた。食事ができない以上、最低限の栄養は点滴から摂らせていたが、明らかに顔色は悪くなり痩せたように見えた。一週間もナマエの声を聞いてないことに、オレ自身も調子が狂い始めた。
「そういえば、どっかの国には眠り姫って童話があるらしいっすよ」
「童話?」
「その話では、お姫様が罠にかかって毒リンゴ食って眠りについてしまうけど、愛する王子のキスで目が覚めるとかなんとか」
「オレが知ってる話だと、お姫様が毒針で眠っちまうって話だったと気がするぜ。それも王子のキスで目覚めたってオチだったと思うけど」
「じゃあ、ナマエにもキャプテンがキスしたら目覚ますんじゃないのか?」
食堂にいた全員の視線がオレに向けられた。たしかにナマエのことはクルーだけじゃなく一人の女としての好意を持っているが、それを本人にも他の奴らにも話したことはなかった。なのに、この全員が知ってます的な空気はなんだ。
「……オレは部屋に戻ってる」
居心地の悪さにオレは食堂から出た。船長室に戻る途中で、ナマエが眠る女子部屋の前で足が止まった。静かにドアを開け、ナマエのベッドに近付く。
「オレは海賊だし、王子様なんて柄じゃねぇだろ」
そう呟いてから身体を屈めて、ナマエの唇に自分のそれを重ねた。3秒ほど触れたそこから離れると、閉じていたナマエの眼がゆっくりと開いた。
「キャプ、テン?」
「やっと起きたか、オヒメサマ」
これは都合よく解釈していいんだろうか。海賊のオレもお前にとっての王子になれるかもしれないと。