火薬委員会の活動のために火薬庫に向かい、扉を開けた瞬間、俺は手を止めてしまった。中にいたのは土井先生と俺が片想いしている一つ年下のくのいちのナマエの二人だけ。仲良さそうに笑いあいながら話していたが、ナマエの方が俺に気づいてこちらを向いた。

「あ、久々知先輩!こんにちは」
「兵助、遅かったじゃないか。じゃあ、私は会議があるから先に失礼するよ。ナマエもあまり危ないことをするんじゃないよ」
「はーい」

そう言ってナマエの頭に撫でる土井先生をナマエは少し赤くなった頬で見上げていた。やっぱり女の子って土井先生みたいな大人な男の人に憧れるよな。そう思うと、まだ十四歳の自分がやけに子供に思えてしまった。土井先生と入れ替わるように蔵に入った俺にナマエは近づいて来て、持っていた書類を渡してきた。

「土井先生から火薬の注文票預かりました。近いうちに届くから、今の分の在庫を数えておいてほしいそうです」
「わかった。他のやつらが揃うの待ってても遅くなるし、先に始めようか」
「はい」

ナマエには棚の低い位置にある火薬の資料を渡し、高い位置のは俺が数えることにした。しゃがんで数えているナマエを横目に見て、あることに気づいた。そういえば頭巾をしていないな。

「頭巾はどうしたんだ?」
「え?あ、頭巾ですか。午後の実習中に風に飛ばされて、木に引っ掛かったから、それを取ろうとジャンプしたら敗れるし、着地の時に転んで掌を擦りむいちゃったんです」

そう言ってナマエは左の掌を俺に見せるように上げた。たしかに掌に包帯が巻かれていた。

「しかも、ちょうど土井先生が近くにいらっしゃて、その一部始終を見られてしまって」
「そうなんだ」
「四年生にもなって頭巾一つ取るのに怪我するなんて恥ずかしいですよね」

手を引っ込めて照れたように顔を反らし、目線をまた棚に戻した。きっとナマエは自分がドジをした姿を土井先生に見られたことが恥ずかしかったんだろうか。俺だったら、ナマエのそんな姿もきっと可愛く見えてしまうと思った。それに普段は見えないナマエのつむじを見下ろして、少しだけ心臓が早くなった。

「誰だって怪我くらいするさ」
「久々知先輩もですか?」
「あぁ。俺や勘右衛門も怪我することはあるし、六年生の先輩たちだって実習帰りに見ると結構傷だらけだよ。伊作先輩は自分の不運での怪我も多いけど」
「ふふっ、たしかにそうですね」

ナマエの笑う声に俺も思わず口の端が緩むのがわかった。さっき土井先生がしたみたいにナマエの頭を撫でてやれば、ナマエが俺を見上げた。上目遣い、かわいい。

「教科も実技も頑張ってて、こうして火薬委員の仕事も手伝ってくれるナマエが俺は好きだよ」
「……ふえっ!?え、きゅ、急にどうしたんですか?!しかも、あの、す、好きって!?」
「ほら、早く数えないと他のやつら来るのに、そんな顔真っ赤にしてたらからかわれるぞ」
「くっ、く、久々知先輩!」

書類で顔を隠してても真っ赤になったナマエの耳はしっかり見えていた。もしかしたら俺にも可能性はあるのかもしれない。

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