その日は前の晩から冷え込んでおり、朝起きた者が部屋から出ると学園中に積もった雪が見えた。ナマエも装束に着替えて部屋から出ようとしたが、障子を少し開けて外から入ってくる刺すような冷気に思わず障子を閉めた。
「外絶対寒い、絶対寒い、出たく、ない…」
思わず部屋の隅に置いてある机の上に畳んだ膝かけに包まった。寒がりの自分のために母が作ってくれたそれはナマエにとっては欠かせない暖をくれる物。食堂まで行けば火も使っているし、温かいご飯もあるし、温まれると分かっているのに、それまでの廊下は屋外だ。室内ですらこの冷え方。寒いのが苦手なことが自分の弱点としか思えず、それもまた気分を下げていた。
「人肌が恋しい」
「呼んだかい?」
「っ!?」
ナマエは天井から聞こえた声に驚き、上を見上げた。天井の梁に利吉が腰かけていた。
「利吉さん!?いつからそこに」
「いつからと言われたら、ナマエがまだ布団に包まっている時からだな」
「なっ!お、起こしてくれたらいいじゃないですか!」
「寝顔が可愛かったから見惚れていたんだよ。それより」
利吉は音も立てず下りるとナマエの前に腰を下ろして、両手を広げた。
「ん」
「?」
そのまま何も言わない利吉にナマエは首を傾げた。自分の意図していることが伝わっていないとわかり、利吉は溜息をついた。ナマエの腕を掴み、自分の方に引き寄せると、そのままぎゅっと抱きしめた。
「人肌が恋しいっていうから、恋仲の私が直々に暖めてやろうと思ってな」
「利吉さん」
「あと、間違っても私以外の男に向かってそうこうことは言わないように」
「言いませんよ。今だって利吉さんの暖かさを思い出してました」
ナマエも利吉の背中に腕を回して更に密着し甘える仕草に利吉は嬉しさと愛おしさを感じた。
「なら、朝からもっと暖まることをするのはどうだ?」
「それはだめです。私は今日も授業ですし、それに食堂のおばちゃんの朝ご飯を食べ損ねるのもいやです」
「……残念だな」
ナマエはさっきより身体が温かくなったような気がした。朝から利吉に会えるだけで寒さも冷えもどこかへ消えてしまった。恋とは、愛とは、何にも勝るのかもしれない。名残惜しそうにナマエは利吉から離れようとしたが、利吉はナマエを抱きしめた腕を緩めず、ナマエを横抱きにして立ち上がった。
「きゃ!り、利吉さん?」
「ナマエの足より私の移動の方が早いからな。このまま食堂まで連れて行ってやろう」
「な!い、いやです!みんなに見られちゃう!」
「何がいけないんだ?私たちのことはすでに学園内のみんなが知っている」
「だから恥ずかしいですよ!こんな格好で食堂までなんて!」
「羞恥に耐える訓練になりそうだな。いくぞ、ナマエ」
「お、おろしてーー!」
あっという間に食堂に運ばれたナマエは恥ずかしさのあまり赤面したまま一瞬で朝餉を食べ終え、逃げるように授業に向かった。一方の利吉は伝蔵にあまり学園内でいちゃつくんじゃないと、拳骨と説教を食らっていた。この一件で、忍たま、くのたま双方に利吉がナマエを甘やかしまくっているという認識が広まった。