それなりの賞金がかけられた海賊として、目をつけられることは増えた。だが、今オレの身に起きている状況は初めてだった。

「どこか体調が悪いところはありますか?」
「この状況が胸糞わりぃのと、海楼石の手錠のせいで身体に力も入らねェし」
「口が聞ければ大丈夫ですね」

目の前にいる黒いスーツを着て、腰まである長い髪を一つに束ねていた。ソファーに座られたオレを見ては、必死に書類に筆を走らせていた。

「お前、海軍か?」
「違います」
「じゃあ、政府の人間か?」
「違います」
「海賊か」
「それも違います」
「じゃあ、お前はなんだ。何故オレを拘束した」

女の手が止まって、溜息をついた。

「状況の説明が必要ですか?」
「どう見ても必要だろ」
「私は某国の貴族に仕えている侍女です。私の主人でもあるその貴族の一人娘が彼方の手配書を偶然見かけてしまったらしく、一目惚れしてしまったのです。しかし、彼女は貴族。親が決めた婚約者がとっくにいるのです。彼女は賢い娘なので、自分の生きる世界も理解していまいた。そこで、私に一つお願いをしてきたのです。彼方のことを知りたい、と。彼女のささやかな願いのため、私は彼方を探しました。ようやく見つけたので捕えた、というわけです。トラファルガ・ロー」
「……なるほど。主人への忠誠心ゆえの行動ってわけか」
「ちなみに私は元海兵ですので、それなりの戦闘経験もあります。おかげで、彼方をこうやって拘束できています」
「くくっ、お前みたいな女は初めて見た」
「私の名前はナマエです。お前などと呼ばれる筋合いはありません。トラファルガ・ロー、私の質問に答えつつ、彼方のことを教えてください。私は主人の願いを叶えたいだけですから」

ナマエと名乗った女は本当にただオレのことを事細かに訊いていった。フレバンスでのこと、ドンキホーテファミリーに入ったこと、コラさんと出逢ってオペオペの実の能力を得たこと、海賊して海に出たこと。どうしてか、ナマエには話していて不快にならなかった。気がつくと、ナマエの目から大粒の涙が零れていた。

「おい、何泣いてやがる」
「っ!な、泣いてません!」

オレに指摘され、慌てて目を擦るから目が赤くなっている。

「幼少期にそんなことがあったトラファルガー・ローが、こんなに愛されて、よかったって、思って」
「ナマエ、手錠を外せ」
「え?」
「逃げねぇから。手錠を外せ」

ナマエは机の引き出しから鍵の束を取り出すと、オレの隣に座った。海楼石の手錠に鍵を差し込むと、手錠は外れた。立ち上がろうとするナマエの手を引いて、胸元に頭を抱き寄せた。

「なに、するんですか」
「目の前で泣かれると気が悪いだけだ」
「なんですか、それ」

ふふっとナマエの笑う声に、心臓が早くなった気がした。

「トラファルガ・ロー、私も彼方に興味が湧きました。彼女にも彼方のいい話ができそうです」
「なぁ」
「はい?」
「お前は主人が結婚したらどうなるんだ」
「彼女が望めば嫁ぎ先の貴族の家でも彼女に仕えるかもしれません。ですが、向こうの家がもう侍女は不要というのであれば、今のお屋敷にそのまま残るかもしれませんし、お役御免とあらば転職するのもいいかもしれませんね」
「なら、オレが迎えに行く」
「え?」
「お前が欲しくなった。ナマエ、お前をオレの船に乗せる」

明らかに驚いた顔のナマエすらかわいく見えた。こいつが貴族の世界で貴族に仕えて生きるのは勿体ない。ゆっくりじっくりオレに落としてやる。

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