用具倉庫に向かっていると校庭から小平太に呼び止められた。後ろには長次の姿も見えた。

「小平太、どうした?」
「もそ」
「長次が今朝見かけたナマエの様子がおかしかったから心配だって。私もいつもよりナマエが元気なさそうに見えたし、留三郎が聞いてやるのが一番だろう」
「わかった」

二人と別れ用具倉庫に向かっていると、用具倉庫近くの軒下に腰掛けているナマエがいた。たしかにその横顔からはいつものような元気さを感じられなかった。

「ナマエ」
「…留三郎先輩」
「どうかしたのか?」

隣に腰を下し様子を伺う。ナマエは難しい顔をしたまま口を開いた。

「父上から文が届いたんです、三つ上の姉の嫁ぎ先が決まったと。あと、姉が嫁ぐ家の親戚筋に私も嫁がせるから卒業と同時に相手の家に入るようにと」
「なっ!?」
「留三郎先輩、私、嫌です…好きでもない人の元へ嫁ぎたくない…ずっと留三郎先輩と一緒にいたい」

ナマエの大きな目からぽろぽろと零れ落ちる涙はナマエの手すらもすり抜け、忍装束を濡らしていった。二年にわたる片想いから、ようやくナマエに想いが通じたそんな時にナマエの実家からの文。だが、俺だってまだ忍術学園で学ぶ身でナマエのためにしてやれることは限られている。だからといって目の前で泣いているナマエを放っておけるわけもない。

「ナマエ」

俺がナマエの手を握ると、ナマエは涙を浮かべた目で俺を見上げた。その目には不安の色が見えた。

「一年待ってくれるか」
「え?」
「俺が卒業した一年後。ナマエが忍術学園を卒業する時、家に連れて帰られる前に俺が迎えに来る」
「留三郎先輩」
「俺もずっとお前と一緒にいたいし、離れたくない」
「私も、同じ気持ちです」
「ナマエの家族には悪いことをしちまうがな」
「家なんていらない。私には留三郎先輩の方が大事です」

ナマエは縋るように抱きついてきた。俺よりも小さなその身体の重みを受け止めながら、どうか俺たちの未来を誰も阻まないでくれと祈った。

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