図書室で図書委員の仕事をしながら、僕は視界の端に入る出入口の障子が開くのをずっと気にかけていた。今日は水曜日。彼女が来る日のはずだ。図書室の中には僕と中在家先輩の二人だけで、妙に落ち着かなくてそわそわしていると、本の整理をしていた中在家先輩が口を開いた。
「雷蔵、あいつはまだ来ないから落ち着け」
「中在家先輩」
「ここに来る前、職員室で山本シナ先生と話しているのを見かけた」
中在家先輩の言葉に一度大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
毎週水曜日はくのいち教室五年のナマエが来る日だ。今週月曜日に僕はナマエに告白して、無事に恋仲になった。つまり、今日は恋仲になって初めての水曜日。
「ナマエも雷蔵と恋仲になれたと嬉しそうに言っていた」
「そうなんですか?嬉しいって思ってくれてるなら僕も嬉しいです」
「お前たちは互いに好き合っているのに告白すべきかどうか迷っているのを見ているのはじれったかった」
「僕もナマエも似たような迷い癖がありますから」
そう、僕とナマエは似たような迷い癖があるのだ。それはナマエが図書室に来る日がいつも固定になる原因でもある。
ナマエはまずどの本を借りようかと迷い、借りた本を読み終わった後ももう一度読み直すかどうかを迷って結局返却は期限当日になっていまう。だからいつもナマエが図書室に来るのは水曜日。そして図書室で本を渡した際、僕はナマエに一目惚れしてしまった。少しずつ図書室で話せるようになって、図書室の外でも話したり、一緒に町に出かけたりして、ようやく恋仲になれた。もちろんナマエと恋仲になったことは中在家先輩にも報告した。中在家先輩は僕たち二人のやりとりをずっと見守ってくれていた。
「失礼します」
「ナマエちゃん!」
「雷蔵くん、中在家先輩、こんにちは」
障子が開いて本を持ったナマエが入ってきた。僕の向かい側に座って本を差し出した。
「返却お願いします」
「うん」
「ねぇ、雷蔵くん。この前言ってたでぇとなんだけど」
「三郎が教えてくれたお茶屋さんに行って町で買い物しようって言ってたやつだよね」
「うん。その時に着る小袖を何色のにしようか迷ってて、その、よかったら雷蔵くんとお揃いの色にしたいな、って思ったんだけど、だめかな?」
「全然だめじゃないよ!ナマエちゃんとお揃いででかけたら嬉しいし」
「よかった。じゃあ何色のか決まったら教えてね」
「うーん、ナマエちゃんにも似合う色がいいから迷っちゃうな」
「ふふふ、私も迷ったから雷蔵くんに相談したんだよ」
ナマエちゃんとそうやって笑い合っていると中在家先輩が僕たちに近付いてきた。
「雷蔵、ナマエ、図書室では静かに」
「あっ、ごめんなさい、中在家先輩」
「気をつけますね。そうだ、雷蔵くん、今日借りる本も迷ってたからおすすめ教えてほしいな」
「それなら先週入荷した本が、いやナマエちゃんが読んでた本の続編も面白かったし、どっちがいいか…迷うなあ」
こうして今日も図書室には穏やかな時間が流れていった。