保健委員の当番になっている僕が医務室に向かったら医務室の前で難しい顔をして立っているナマエがいた。学園内にいるというのに、彼女は外出用の小袖を着て、胸の前で手を握っていた。
「ナマエ?」
「っ!ひゃあっ!あ、い、伊作くん!」
声をかけるとものすごく驚いたらしく、その場に腰を抜かしてしまった。
「医務室の前で腰を抜かすなんて運がいいね、ナマエは」
「うぅ」
障子を開けてからナマエを横抱きにしてそのまま医務室の中に入って下してあげた。
「立てるようになるまで休んでていいよ」
「ありがとう。今日は他の保健委員の子は?」
「今日は僕の当番なんだ」
「そう。よかった、後輩の子たちに情けない姿を見られなくて」
「くのたまにも忍たまにも人気のナマエ先輩を守れてよかったね。やっぱり今日の君は運がいいよ」
運がいいのは僕の方だ。片想いを四年近く続けている彼女に触れる大義名分を得られ、またこうして二人きりになれたことを喜んでいるのだから。
「そういえば私服だけど、これからどこかに出かけるところだった?」
「ううん。町での実習帰りなの」
「それで医務室の前にいたってことはどこか怪我でもしたの?見せて、いつもみたいに我慢したり隠すのはなしだよ」
「怪我もしてないわ。ただ、その、ちょっと、伊作くんに渡したいものがあって」
「僕に?」
ナマエは胸元から小さな袋を二つ取り出して、一つを僕に差し出してきた。
「町で実習してたって言ったでしょ?そこにちょうど歩き巫女の子たちがいて、聞いたら同じ歳っていうからつい話が盛り上っちゃって、それで御守にってこれをくれたの」
「開けてもいい?」
「うん」
もらったその袋を開けると中には貝殻が何枚か入っていた。取り出してみると、ピンク色や虹色にきらきらと光るそれは綺麗だと思った。何枚か見ていて、その貝殻に違和感を感じた。どれも片方だけしかなった。
「これは巫女の子が離れてもまた会えますようにって願をかけた貝殻らしいの。貝って二枚で一つになるでしょ。半分は自分が持って、もう半分をまた会いたいって思う人に渡す御守なんだって」
伏せ目がちに話すナマエの顔はよく見えなかったけど、次第に赤くなっていく耳に、彼女が言おうとしていること、彼女のことの意味がはっきりとわかった。
「ナマエ、顔を上げて」
僕の言葉に従ってくれたナマエの顔もやっぱり赤くなっていた。そんな顔も愛おしいと思った。
「これ、ありがとう。どうやら、今日は僕も運がいいらしい」
「え?」
「だってずっと片想いしてた子からこんな素敵な贈り物がもらえたんだからね。だから、僕は今から君に告白するよ。ナマエ、君が好きだ。僕と恋仲になってくれますか?」
「うん!私も好きだよ、伊作くん」
僕たちは貝を重ねるようにお互いの手を握り合った。