「絶対お断りします」
「そこをなんとか頼む!」
「いくら先輩の頼みでも無理です」
生き物小屋に近いところで俺は必死に両手を合わせ頭を下げていた。相手はくのたま三年のナマエ。孫兵が生物委員会に手伝い要因として連れてきてからの付き合いだ。俺の交友関係の中では一番仲が良い女子はナマエしか思いつかず、こうして頭を下げ出された課題に付き合ってほしいと頼み込んでいた。それもこれも出された課題のせいだ。
「異性と一晩同じ布団に眠る課題の手伝いなんてできないです!だって先輩に寝顔見られるってことですよね?絶対無理です!」
「いや、ナマエの寝顔は見たことある」
「え?」
「何回かだけどな。お前校庭の隅っこにある木の根元で昼寝してるだろ?その時に見たことはあるぞ」
「っな、なんて、ことを」
「学園内とはいえ無防備に昼寝するなんて油断しすぎだ。まぁ、寝顔は可愛いなって思ったし、だから今回の課題だってナマエとなら」
「う、うわぁぁん!無理!ほんと無理です!恥ずかしいっ!今すぐ綾部先輩の落とし穴に落ちたい!」
「えっ!?ちょ、ナマエ、な、泣くなって!」
その場にしゃがみ込んでいよいよ泣き始めてしまったナマエに俺はオロオロするしかできなかった。そんなに俺と一緒に寝るのが嫌だったのか。そんなことを思っているとズキッと胸が痛くなった。目線を合わせるように俺もしゃがんで、泣いているナマエの頭を撫でてやると次第に泣き声は小さくなっていった。
「ぐすっ」
「ごめんな、ナマエ。お前がそんなに泣くほど嫌がってたなんて思わなかったから」
「…違うんです」
「違うって何がだ?」
ナマエはゆっくりと顔を上げて俺を見た。泣いたからか潤んだ目と少し赤くなっている顔に今度は胸がドキッとした。
「寝顔なんて緩みきった顔を、す、好きな人に見られて嬉しいって思う女の子なんていません」
「……ん?」
なんか今聞き逃しちゃいけない言葉があったような。
「今、好きな人にって言ったか?」
「…言いました」
「えっと、つまり、ナマエは俺のことが好きで、俺がナマエの寝顔見たことあるってことが恥ずかしかったってことか?」
こくりと頷くナマエに俺は頭を撫でていた手が止まった。それと同時に顔に熱が集まっていくのがわかった。あ、これ、まずいやつだ。
「先輩、お顔が真っ赤ですよ」
「っ!だって、お前、好きとか言うから!」
「先輩が私のことを後輩の一人としか見てないってことはわかってます。けど、私は八左ヱ門先輩のことが好きだから、課題のためとはいえ一緒に眠るなんてしたくないです、それにきっとドキドキして眠れないですよ」
困ったように眉を下げてそう話すナマエを俺はぐっと抱き寄せた。
「せ、先輩?」
「俺は色恋とかあんまり得意じゃないけど今はっきり分かった。俺もナマエのことが好きだ。いつも生物委員会のこと手伝ってくれる姿とか、昼寝してる時に見た寝顔とか、こうして俺のことを好きだって言ってくれるのとか、全部可愛いって思った。誰にも見せたくない、俺だけに見せてほしいって思った。それってナマエのことが好きだからなんだな」
「それって」
「順番が逆にならなくてよかった。ナマエ、俺の恋仲になってくれ」
「ふふふっ話しが急展開すぎですね」
「だめ、か?」
「いいえ、こういう展開なら大歓迎です」
ナマエの手が俺の背中に回され、胸元に顔をすり寄せた。今日は実技の事業はなかったから汗臭くはないはず。そんな心臓の近くに顔を近づけられるとドキドキしてる心臓の音が聞こえるかもしれない。それでも離したくないと思ってしまうくらいに気づいたナマエへの好意はもう止められそうになかった。