忍びのたまごといえど、好きな子ができても、その想いをなかったことにできるほど俺はまだ大人じゃない。
先日火薬委員会を手伝ってくれたことを口実に、片想いしているくのたまのナマエをお礼がしたいと町へ団子を食べに行こうと誘った。彼女が団子を食べたがっているとは同じ四年の喜八郎が教えてくれた。

「ナマエが手伝ってくれたおかげで、次の予算も通ったから助かったよ」
「いえいえ、たいしたことはしてません。潮江先輩の扱い方は立花先輩からの受け売りですから」

ナマエは元々、立花先輩と同郷らしく、それが縁で潮江先輩とも話す機会があるといい、火薬委員会の予算を交渉するにあたって潮江先輩の攻略を教えてくれた。おかげで予算も無事に通った。六年生がいない委員会で委員長代理をしている五年にとっては、会計委員長の潮江先輩と予算交渉するのはある意味演習よりも緊張する。

「あの潮江先輩を手玉に取って転がせるなんて、くの一らしいところあるんだな」
「久々知先輩、私だってもう四年間もくのたまやってるんです。それに私、交渉事や人心掌握術とかは結構得意な方なんです」
「得意?」
「はい!例えば、久々知先輩とお話したいときはお豆腐をきっかけにすべし。ただし、お豆腐のお話をしている久々知先輩はヒートアップしてくるので聞き手に回るとよい、とかですね」

自慢げにお団子を指示棒みたいに振りながら言うナマエに思わず笑ってしまった。

「なんだそれ。ってか、団子落ちるぞ」
「っわわ」

慌てて団子を口に運ぶ姿を見れば可愛いと思うし、すぐ触れられる距離にある手を握ってみたいと欲が湧く。でもそれを必死に自分の中に押し戻す。

「じゃあさ、俺がナマエともっと仲良くなるにはどうすればいい?」
「んーそうですねー」

団子を咀嚼しながら考える素振りを見せるナマエの横顔を見つめる。豆腐のように白いその頬は触ったらやっぱり柔らかいのだろうか、瑞々しいのだろうか。口の中にあった団子を飲み込んだらしいナマエは俺の方を向いて笑顔を見せた。

「久々知先輩が私のこと好きになってくれたら、もっともっと仲良くなれると思いますよ」
「……え?」
「お団子なくなっちゃたし、そろそろ学園に帰りましょう。あ、私四年生のみんなからお土産にお団子頼まれてた分買ってくるので、先輩は先にお店出ててください。おばさん、持ち帰り用のお団子五つお願いします」

ナマエの言葉に呆気にとられた俺を残して、ナマエは店のおばさんを追って行った。好きになってくれたらということは、ナマエは俺のことを好きなのか。戻ってきたらもう一度ちゃんと聞いて、ちゃんと言おう。俺もナマエのことが好きだと。そうすればきっと学園に着く頃にはただの先輩後輩の関係はきっと変わるだろう。

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