入学した日に出会ったナマエとは、忍たまとくのたまでありながら友達になって、ずっと友達のままいられると思っていた。
先に変わったのはナマエだった。三年生になって、ナマエは俺と同室の兵助のことが気になると相談してきた。その時の衝撃は実習中に初めて間近で石火矢を撃たれた時のように全身が震えた。それと同時に俺は、ナマエのことが好きなのだと言うことを自覚した。ナマエへの恋心を自覚すると同時に失恋した俺は、ナマエの恋が上手くいくように手助けすることにした。好きな子には幸せでいてほしい、その気持ちに嘘はなかった。ナマエは兵助を遠目に見ているだけでいいと遠慮するから、たまに俺も混ざって三人で話すようになって嬉しそうな顔をしていた。兵助もナマエとは良好な関係を築いていた。いつか俺の大切な友達の二人が恋仲になってくれたら、俺が胸の奥に仕舞い込んだナマエへの気持ちもきっと綺麗に消えてなくなってくれる、そう思って二年が経とうとしていた。
「勘右衛門、お前最近おかしいぞ」
「え?何が?」
兵助に指摘されても何のことだかわからなかった。朝から実習に出ていたから俺たちだけ遅くなって食堂で二人向かい合って昼餉を食べている時に兵助がそう言った。
「ナマエが心配してた。最近勘右衛門に声をかけても元気がない感じがするって」
「春だしちょっとぼけっとしてるのかも」
「そういうタイプじゃないだろ、勘右衛門は」
「意外とそういうタイプだって。それより兵助、俺の分の豆腐も食べていいよ」
明らかに話しを逸らそうと兵助に豆腐が入った小鉢をすすめた俺に、兵助は豆腐を食べながらも話しをやめなかった。
「あとナマエの話しも避けてるよな」
「……なんで、そう思うの?」
「お前、自分では気づいてないと思うけど俺がナマエのことを話すと嫌そうな顔をしてる。そんな顔するくらいならさっさとナマエに告白すればいいだろ」
「……はぁ?」
ナマエは兵助のことが好きなのに、俺がナマエに告白しても何にもならない。それどころか、そんなことをすれば友達という唯一守ってきた場所まで失ってしまう。
「そんなのできるわけないじゃん」
「どうして?」
「どうしてって、ナマエには好きな奴がいるけど、それは俺じゃないから」
「勘右衛門は本当にそう思っているのか?」
「そう思ってるも何も、ナマエから気になる奴がいるって相談されたこともあるし、実際そいつと話してる時のナマエは嬉しそうだから」
だんだん言葉に力がなくなって声が小さくなっていく。なんで兵助にこんなこと言わないといけなんだろう、わけがわからない。兵助は俺があげた豆腐を食べ終わると、両手を合わせてごちそうさまと言い、食器を持って立ち上がった。
「俺には、ナマエは勘右衛門と一緒にいる時が一番幸せそうな顔してるように見えるよ。それに、あいつはくのたまらしく、好きな男の気を引きたいからって、わざわざ好きな男の一番身近な同室の俺の名前を使うくらいしたたかな面もある」
「……ん?」
兵助の言葉に引っ掛かるところが多すぎた。好きな男の気を引きたいから同室の兵助の名前を使った?兵助の同室がナマエの好きな男?え、つまりは俺ってこと?
「勘右衛門が動けば、二人ともいい方向に動くと思う。お互い奥手すぎて変に拗らせてるから。あと、巻き込まれる身にもなれよ。じゃあ、俺先に戻るから」
そう言い残して兵助は食堂から出て行った。一人残された俺はいろいろ気付いてしまい机に頭を置いた。
「あぁもう!そういうことかよ」
俺はもう今日の授業は終わってるから、放課後になったすぐにナマエに会いに行こう。そして仕舞い込んでいた想いを全部伝えよう。伝えないと後悔する。ここまでお膳立てしてくれた兵助にもきっといい報告ができるだろう。顔に熱が集まって逆上せそうだけど、午後の授業が終わるまであと少し。