「はーち屋くーん」

すでに昼飯を終えた昼休み、屋上でひとり暇つぶしに携帯を弄っていると、ガチャンと扉を開く音と同時に能天気で間の抜けた声が聞こえてきた。

「鉢屋さぶろおくん」

そいつは歌うように俺の名前を呼びながら、ガンガンと音を立てて梯子を登りここまで上がってくる。
馬鹿にされているようで気分が悪いが、この女に関しては一切悪意がないことを知っているから今さら嫌な気はしなかった。

「みっけ!」

顔も向けずに無視していると、突然視界いっぱいに名前の顔がひろがる。俺と目が合うと名前はにっこりと口の端を上げて笑った。

「んだよ邪魔」
「鉢屋くん絶対ここいると思った」
「わぁ、すごい天才ー。なにしに来たんだよ」

名前がそのまま腹に跨がってきたのでさすがにギョっとし、俺は片手に持っていた携帯を置いてため息をついた。
この女は、誰にでもこういう甘え方をする。むしろこうすることでしか男と関わりを持てない、一種の病気だ。

「今日あったかいね」
「もうすぐ3月だからな」

そのまま体重を俺にあずけ首元に顔をうずめる名前の頭を撫でてやると、ふふっと笑って俺の耳元で囁いた。

「ね、鉢屋くん、しよ」
「……なに言ってんのお前、ここ学校」
「ええ、せっかく可愛いパンツはいてきたのに」

ほら見て、と名前は起き上がると俺の腹に跨がったまま自分のスカートを捲った。
通常でも下着が見えるか見えないかの長さのスカートのせいで、すぐにパンツ丸出しの状態になる。
青空の下で見る名前の太ももはいつもよりさらに白く見える。
学校の屋上をバックにしたその倒錯的な光景に、頭の処理能力が低下していくのを感じた。

「かわいいでしょ」
「あーかわいいかわいい」
「勘ちゃんが鉢屋くんはピンクが大好きなエロエロ大魔神だって言うから、わざわざ買ったんだよ」
「誰がエロエロ大魔神だって。つーかお前黒パンはいてねえの、パンツ丸見えじゃん」
「だって鉢屋くん、ブルマ脱がすの面倒でしょ?」

なんだこいつ、そんなに俺とやりたいのか。
俺だって健全な男子高校生なわけで、腹の上に白い太もも晒した女がいたらそういう気分にならないわけでもない。
名前の両腕を引くと、再び胸の上に倒れこませ、そのままくるりと身体の向きを変えて名前の上に覆い被さった。
嬉しそうに笑うピンク色の唇を塞いでやると、名前は自分から小さな口を開ける。
舌を入れて歯茎をなぞれば、くすぐったさに堪えきれなかったのか今度は自ら舌を絡めてきた。
唾液がこぼれるのも気にせずにしばらく互いに相手の舌を味わっていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
馬鹿になっていた頭が現実に引き戻され、俺の動きが一瞬止まったことを感じたのか、名前は両手を伸ばして俺の両耳を塞ぐ。

「聞こえないよ」

口の周りを唾液でてらてらと光らせながら、くりんとした瞳で俺を見て言った。
地面についた俺の両腕の間に収まる名前の小さな頭とか、懇願するように俺を上目遣いで見る潤んだ目だとか、両脚を割って間に入れた片膝にすりよせてくる太ももだとか、全部計算なのかは知らないけれど、男を煽るのには十分だった。

「……俺も」

中身はドクズだけど顔と身体は悪くない女にこんなに求められるなんて勝ち組だよなぁだなんて頭のどこかで考えながら、俺は名前の制服のブラウスの裾から中へと手を這わせた。


. top