いつものように名前を荷台に乗せて登校し、2組の前まで名前を送り届けて1組の教室に入り、隣の席の兵助とどうでもいい話をしていると、なぜかさっき別れたばかりの名前がやってきてそのまま俺の席まで走ってきた。
どうしたの?と聞くと名前は、三郎がフラれたって!とまるで新しい玩具を見つけた子どものように目を輝かせながら言った。

「勘ちゃん早く!」
「わかったわかった」
「久々知くんごめんね」
「ああ、またな名字」

名前に手を振り返す兵助に俺も軽く謝ると、名前に腕を引かれるがままについていく。
いつも3人で昼飯を食べている、人通りの少ない東階段の踊り場に着くと、既にそこに座っていた三郎はむすっとした顔で俺たちを見た。

「よー三郎、またフラれたんだって?元気出せよそのうちいいことあるって」
「そうだよ三郎、おっぱいのデカさで彼女選ぶからこんなことになるんだよ…三郎にGカップはまだ早すぎたんだね」

両サイドから肩に手を置かれて諭すように言われるが、もちろん遊ばれているとわかっている三郎はますます顔をしかめる。
三人並んで座ると俺はその不貞腐れた顔に追い打ちをかけるように、"今回"の理由を聞いた。

「今までの子と理由が被ってたら面白くないから罰ゲームだよ」

ひひっと可愛らしく笑う名前の言葉に、今まで三郎が彼女にフラれた際の理由を思い返してみる。
『冷たい』だとか『私じゃなくてもいいんでしょ』だとか、酷い時は『鉢屋くんって女を何だと思ってるの?』なんて言われてたっけ。
三郎は学年一と言っても差し支えないほど恐ろしくモテる男だ。彼女がいる時もいない時も、週に一度は必ずどこかの女子から告白されている。
そのくせ、別れるときは決まって向こうからフラれていた。基本的に去る者追わずのスタンスである三郎は特に食い下がったりはしないのだが、自分がフラれたという事実にこうして毎回落ち込むのだ。
自分が否定されることに対してはメンタルの弱い男である。

「うるせえな、被ってねえよ」
「じゃ、また新たに三郎の欠点が掘り出されたわけかあ」
「えー、まだあるの?」

興味津々な上に言いたい放題の俺たちに、三郎は一度深いため息をつくと口を開いてぽつりぽつりと話し始めた。

「……ヤってるときに、…間違えて、他の女の名前、呼んだ」
「……」
「ぎゃ、はははははは!」

一瞬言葉を失った俺の代わりに、名前が爆発的に笑いだす。
よほど面白かったのか、スカートやカーディガンが汚れるのも気にせずに床の上で笑い転げる名前を恨めしげに見つめる三郎に、俺は一つの予感を抱きながら誰の名前と間違えたの?と聞いた。
三郎はバツの悪そうな顔をすると、無言で名前の目をじっと見る。

「……えっ、私?三郎バカじゃん!あっははは、はははお腹痛い!」

見事予想が的中したことで俺も思わず笑ってしまうと、三郎にぎろりと睨まれた。
いやあだって三郎くん、君も不毛な気持ちをいつまでも大事に抱えているよねえ。

三郎が名前の姿を重ねてセックスするために彼女をつくっていることには薄々気がついていた。
名前の代わりであるが故に、三郎の彼女になる女の子はみんな背丈や髪型や雰囲気が名前のそれと似ているのだ。
そんな無意味なことをしてまでも三郎は名前には手を出さない。俺だって似たようなことをしているから、人のことを言えた義理じゃあないんだけど。

「あ〜笑った、なんでそういうとこでヘマすんのかなあ三郎…可哀想にね」
「うるせーお前のせいだろうが」
「グェ、痛い!なんで!」

完全に煽りにかかっている名前の腹に三郎が右足の踵を落とし、名前は蛙みたいな声をあげた。
名前はびっくりするほどの馬鹿だから、三郎がどうして彼女と自分を間違えたのかなんてことには永遠に気がつかないんだろう。

「まあまあ三郎、今日はぱーっとやろう、な?」
「そうそう、三郎んちで雷蔵も巻き込んでさ、ヤなことは全部クッパにぶつけて忘れよう」

肩に手をまわしながら俺が言うと名前も上半身を起こして三郎の膝に手をのせる。
3人くっついたことで三郎が少し機嫌を取り戻すのを見て、俺はどこまでも不毛で愛しいこの関係にまた小さく笑った。





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