いつでも何処でも一緒。



「そう言えば―――」


静かな書庫の一角で三人揃って黙々と書物の整理をしていた際、エナガの何気ない一言で穏やかな空間に僅かばかり亀裂が走る。


「二人ともいつでも何処でも一緒にいるよね?」
「「まさか」」


心外だとばかりにサガとカノンの言葉が重複する。
両隣から降って来た「否!」という声に、エナガは内心苦笑した。


「別にお風呂とかトイレとか寝る時とかも一緒だとは思ってないって」
「気色悪いことを言うな…」
「何が悲しくてそこまで共にせねばならんのだ…」
「だから私もそこまでは思っていないってば。でも、自覚ないの?」
「「ないものはない」」


気が合うよね、絶対に。
思っていても口には決して出さない。
出したら最後、結果など嫌と言うほど経験済みだからだ。


(二人していかに馬が合わないかを力説されるのだけは御免だわ…)


一人密かに頷いていると、左にいたカノンがエナガの頬を抓ってきた。


「いひゃい(痛い)」
「何一人で納得している?言って置くが、サガはともかく俺はサガに四六時中引っ付いているほど暇ではない」
「カノン、それは私の科白ではないか。大体私は付いて来いとは一言も言っておらんぞ」
「誰が来いと言われて来るものか。そもそも俺はこいつに用があったんだ」


こいつ、と言われてエナガは更に頬を抓られる。
無論加減はしているので、口で言うほど然程痛みはないだろう(とカノンは思っているだけで、エナガからすれば痛くてたまったものではないのだが)。


「よさないか。エナガが痛がっているぞ」


サガの制止にエナガは大いに同意するように、カノンの右腕を二三軽く叩いた。
流石にこれ以上抓っているのは分が悪いと判断したのか、カノンは抵抗することなくエナガを解放した。


「酷い…跡が残ったらどうしてくれるわけ?」
「なんだ、そのくらいなら俺が責任取ってやる。それで問題ないだろう?」
「はいはいそうなったらよろs「大有りだ。エナガ、口車に簡単に乗せられるものではないぞ。後でより酷い目にでも遭ったらどうするのだ」
「いや別に冗だ「少なくともお前よりかはマシだと思うぞ?」


ああ、またか。
頭上で繰り広げられる口論に、エナガは頭を抱えた。
間に挟まれたエナガの存在を無視して双方激しい罵り合いをしてくれるのも、これで何回…いや、少なくとも片手で足りない数、下手をすれば両手でも足りないかもしれない。
一度始まったらそう簡単に止められないことも、エナガは痛いほどよく分かっている。


(整理、私のノルマだけ頑張ろ……)


仲が良いほど喧嘩する、は案外真理なのかもしれない。
そんなことを思いながら、エナガはそっと後ろに身を引いて場所を移動した。


「そもそも用などと見え透いた嘘を付くとはどういうことだ!?」
「借りた物を返すことが用ではないと言うなら一体何と言う?そっちこそ、仕事と言えばエナガが断れないのを承知でわざわざ薄暗い書庫に連れ込むとはな」
「言わせておけば……ッ、それだからエナガにあらぬ誤解をされるのだぞ!」
「お互い様だ。大体気づかない奴が悪い。俺たちが四六時中一緒にいると錯覚するのは、エナガ、お前が――――」


カノンが視線を右下に下ろすも、いるはずの存在はそこにいなかった。
よくよく気配を探すと、一つ後ろの棚の方にいる。


「あ、終わった?」
「「何が?」」
「喧嘩。あと本の整理」
「「…………」」


途端、黙り込む二人にエナガはにっこりと微笑むと、


「私の分の整理は終わったから、後は二人“仲良く”頑張ってね」
「「………………」」


バタンとドアが閉まる音を聞いて、残されたサガとカノンはどちらからともなく盛大に嘆息した。
だから仲が良いんじゃない。
エナガの去り際にせめてそれだけ言ってやりたかったものの、彼女は左から右に流すだろうと思ったら、口を噤むしかなかった。


「あいつは何故気づかんのだ…自分も“共にいる”からそう見えるということに」
「仕方ない。今のように彼女を蔑ろにしていれば、な…」
「それはお互い様だろう。大体これでは誤解が解けるどころかむしろ逆に深まるばかりだ」


誤解が誤解のまま積み重なって、気づけば解きようのない事実とされてはたまったものではない。
思うようにいかない現実に苛立つも、今再び八つ当たりという名の兄弟喧嘩を始めれば、それこそ喧嘩するほど仲が良いとエナガに言われてしまうだろう。

行き場のない憤りを胸の内に燻らせつつ、瓜二つの顔の兄弟と薄暗い書庫内で二人きりという呪縛から一刻も早く逃れるべく、二人は躍起になって残された仕事を片付けるのだった。





(完)
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仲が良すぎる友達10のお題
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