Let's!わくわくデストロイ



「ブラック、君…天文学なんて取ってたの」
「…まあ」
「………そっか」

真夜中、今年最初の天文学の授業。

6年生で受ける授業は、5年生のOWL試験の結果を受けて決まる。
私はというと魔法省に勤める気は毛頭ないし、どっちかというと研究者的な引きこもり生活を予定しているのだけど。
あ、いや、引きこもりというと語弊があるか。
魔法界では17歳、つまり6年生の時点で成人だから、ホグワーツを卒業したら普通は皆何かの職に就く。
私は一応その、魔法薬作りで小銭を稼いでおりますし、有難い事にまあまあの売上を頂戴しているので、そちらを収入源として対闇の陣営の策を練りたいんですよね。
ちなみに、私がOWL試験で取得出来た科目は、変身術、薬草学、呪文学、闇の魔術に対する防衛術、天文学、魔法薬学、魔法生物飼育学の合計7つ。
側にリリーとセブルスという魔法薬学の神がいたから魔法薬学の成績はかなり良かったし、付随する薬草学とか、あとは個人的な練習の成果で変身術や呪文学もなかなかの結果だった。イエイ。
闇の魔術に対する防衛術は、勿論一番頑張ったっすウィッス。
私の場合、勉強を頑張るのは未来を見越してってのが理由としては大きかったんだけどね。

つまりどういう事かというと、当然のように魔法省への就職を勧められたんですね。
主に闇祓いはどうかってスプラウト先生に…難しい職なのは知ってるし勧められるのは嬉しいけど、私ってそんなに戦うイメージあるの?まあお転婆な自覚はありますよ。
あとはマダムポンフリーを見てて癒者もいいなって思ったりもした。
でもやっぱり、この先何が起こるのかという知識を持ってる身としては、出来る事はしたいなって思って。
その為には就職よりも研究かなと思い、スプラウト先生には大変申し訳ないのだけど魔法省へは行かないと言い切った。
そして進路としては「魔法薬学とか、得意分野を生かせるものがいい」っていうすっごくアバウトな希望を伝えて、まだ時間はあるからゆっくり考えなさいと言ってもらえた事もあり、猶予期間に甘える事となったのである。

とまあ私の近況は置いておいて。

6年生の、しかも天文学の授業だから人数は全寮合同なのに少人数だ。
人数が少ないからなのか何なのか、現在、先生の指示によりくじ引きでペアを決めようって所です。
天文学が進路的に重要なのはごく少数の人で、じゃあ何で私は取ってるかっていうと、好きなんだよね天文学。
誤解を招かないように言っておくと、天体の動きから何かを読み取るのが最高!快感!とかそういうのじゃなく、ただ静かな空間で夜空を見るのが好きだなあって、それだけなんだけどね。
で、そんな普段の喧騒から離れた静かな授業に、あのシリウス・ブラックがいたっていう。
こう、ぼんやり夜空を見上げる〜みたいなイメージはなかったんだけど、まあいつもあんだけ騒いでりゃ偶には静かな所にいたくもなるのかな。
あ、ペアが決まったぽい────ん?ブラック?ええ?

「マジか…」
「おいシュレイダー、お前だろペア」
「あー…みたいだね、よろしく」
「ああ」

とりあえず並んで腰を下ろした。

……なんとなく気まずい。

3年生の時ポッター、ブラックにブチ切れて殴り合いの喧嘩をしてからというもの、気まずいし接点もないしでグリフィンドール生の彼らに近付く事も、特別仲良くなる事もなく。
ただ、変化はあった。
あの喧嘩以来、ポッターやブラック達のセブルスいじめについてあまり聞かなくなったんだ。
癇癪持ちだなんだと引かれたんじゃないか、そのせいで余計セブルスに当たってくるんじゃないかーなんて思ってた私にとってはかなりビックリで。
彼らにどんな心境の変化があったのかはわからないながらも、それからは私がリリーと仲良いってのもあって、彼女と一緒にいる時だけ、ポッターとは挨拶をする様になった。
でもブラックとは相変わらず。
彼、ポッターがリリーに纏わり付いてる時ちょっと離れてるから、私が声をかけるタイミングもなかったっていうか。
いやだってわざわざ話すネタもないし。

「ペアは決まりましたね。ではそのまま観測を始めて」

学者志望なんてそういないから数少ない生徒達も殆どがお喋りを始めてるけど、先生がうるさく言う人でもないので基本何をしていても、提出物をある程度やっておけばお咎めはないらしい。
こういう所がいいよね、試験とかそういう窮屈さから解放される感じ。
ちらりと横を見る。
1人で取っているのか、ブラックはペアと言われた私の側から動かない。

ブラック家の長男だから、顔がいいから、悪戯好きで目立つから、とにかくいろんな理由からシリウス・ブラックはかなりの人気者だ。めっちゃモテる。
そんな人気者と殴る蹴るの喧嘩をしたってんで、囃し立てたり、女子からはひがまれたり、まあまあいろいろあった。
でももう2年くらい経つし、騒動は日常に流されていくものだ。
関わりがなくて困る事もないから、全然話さないままここまできたんだけども。
今更ブラックとペア組むとか、これを機に仲良くなれって事?
難しい気がするけどねぇ。

そもそもの話なんだけどさ。
私はシリウス・ブラックという人を、ハリーポッターの登場人物としては知ってる────けど、学生時代の彼がどうだったかなんてそこまではわからない。
3年生までに言葉を交わした事は多少あれど、それはセブルスいじめを止めに入る時だけ。
どういう人なのか、本当には知らないんだ。

物語の中の彼は親友達をとても大事に思っているようだったし、親友の息子をとても気にかけていた。
大事な者に対しては愛情深く、嫌いな者へはかなり苛烈。そんなイメージ。
ポッターも、ブラックも、ルーピンやペテグリュー、リリー、セブルス、校長先生も、どんなキャラクターなのかは知っている。それもあくまで知識の話。
死んでしまう未来が待つ彼らを紛いなりにも救おうとするのは、単に悲劇を回避する為なのか、私が失いたくないと思うからなのか。
そこははっきりさせなきゃいけない気がするのだ。
私だってここに生きてる1人だ、紙面の登場人物を救う為だけに人生を捧げるなんて、ちょっと寂しいじゃない。
私が動いて救える命があるならなんとかしたいけど、でも、物語とか、原作とか、そういうもの全部胸の中に仕舞い込んで好きに生きたっていい。
そういう選択肢もある。
進路みたいにさ、使命感より自分の意思で、自分がこれからどうするか決めたいんだ。

とかいう事を、ブラックの気配を感じつつ考えたりして。

初回の授業で勇んで話しかけても何か変だし、話しかけるっていったって今じゃなくてもいいだろう。
真夜中の天文台で、一度喧嘩した奴と仲良くなれたらいいな、なんて馬鹿みたいな事を思いながら。

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