しん、と静まり返っている。アラガミの気配はもう、ない。ふう、と吐いた息が少し白い。日の光に照らされ、辺りはとてもきらきらとしていて、今までここで戦っていたのがまるで夢だったかのよう。
 ……夢なんて、そんなことあるはずがないのだけど。山の向こうに見える"樹"を見て、キトリーは神機を片手に一人、ぼうっとしていた。
 いつも忙しいだろう、って仲間たちが用意してくれたのは、簡単なアラガミの討伐ミッション。今のキトリーからしてみればそれを達成することは、まるでピクニックにでも出かけるかのような容易さ。少し、物足りないくらい。それでも気遣いをないがしろにすることなど出来ず、有難く、それを受託したわけなのだけど。

「……樹を見ると、やっぱり思い出しちゃいますね、ジュリウス」

 遠く、遠く向こうに見える樹。あなたは今も、そこで戦っているのでしょう。
 忘れているわけじゃない。いつだって、いつだって心のどこかで思っている。ブラッドは彼と共に、ずっと、ずっと。
 この仕事を用意してくれたのは、ブラッドの仲間たちだ。極東の人は、一日休暇にすればいいのにって提案してくれたけれど、きっとそれじゃキトリーが納得しないってことを、わかっているのだろう。

「皆さんは、とっても優しいです。ギルも、ナナも、シエルも。いつだってわたしは、支えられてばかりです。あの頃とちっとも変わりませんね」

 ひゅう、と風が吹く。まるであの樹まで、声を届けてくれるみたい。なんて、都合が良すぎるでしょうか。そう言って冗談混じりに笑ったら、ジュリウスも、笑ってくれただろうか。……家族思いな彼のことだから、きっと。それに、キトリーの心の中に残っている思い出はこんなにも温かくて優しいのだ。きっと、そうに違いない。

「ジュリウス。わたしは、まだ、あなたにもらったこの持ち場を離れるわけにはいきませんけれど、それでもいつか、また、会えますよね……?」

 聞いて欲しいことがたくさんある。とても、とてもたくさん。きっと一日や二日じゃ時間が足りない。だって毎日毎日、話したいことがいっぱい増えていくんですよ。だから覚悟しておいて下さいね。いつか、が来る、そのときまで。

「がんばりますね、わたし」

 あなたに胸を張って会いにいけるわたしでいますから、だから。そのときは、あの優しい笑みで、どうか、わたしのことたっくさん褒めて下さいね。



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