柔らかなもので頬を撫でられて、スグリは目を覚ました。
 けれども光が眩しくて、ぼんやりと眠くて、縋るようにもぞもぞと布団に体を埋める。そんなスグリの閉じそうになっている目を開かせようと、柔らかなそれは必死に頬を叩く。ぷにぷにぷにぷに。最初こそ控えめに押し付けられていたがしばらくすると無遠慮な力で圧してくるものだから、いよいよスグリも根負けした。覚束ない力で体を起こして、目をこする。きゅ、と目の前のそれが鳴いた。おはようと言っているのだろう。

「おはよう、……オオタチ」

 嬉しそうにすり寄ってくるオオタチに、スグリも恐る恐る頬を寄せた。長い前髪がたらりと落ちてきて、スグリの瞼をくすぐる。こうしていると、まるであの時のようだ、と朝霧がかかったままの頭でぼんやりと考える。
 ……ここはキタカミの里ではなく、ブルーベリー学園だけれど。
 あの時から色んなことがあって、もう随分と長い間こうしていなかった気がするけれど、久しぶりにボックスから出てきたオオタチは前と変わらない笑顔でスグリに寄り添ってくれた。自分自身で遠ざけたものに気づけたスグリにとって、たったそれだけのことにどれほど救われたことか。オオタチを抱きしめる手に優しく力をこめ、噛みしめるように少しの間を置いてからスグリは目を開ける。

「早く行こう。今日はブライア先生と約束してるから」

 にっこり笑顔で頷くオオタチと一緒にベッドを跳び降りた。制服に手を伸ばしながら、ふと、ブルーベリー学園での生活に思いを馳せる。アオイが交換留学生としてこの学園にいるのなら、一緒にいろんな場所にいってポケモンを探したり、バトルをしたり、ピクニックをしたり、……そういうことだってあるのかもしれない。
 着替えの手を一瞬止めて、机の上を見遣る。封筒が一つ。中身は、休学届けだ。──少し時間を置く。それがきっと自分にとっても、周りにとっても必要なことだろう、と。先生たちと、一部の人たちと話し合って決めたことだった。
 ぐっと力を入れて袖を通す。もうすっかり慣れた手つきで髪をまとめ上げて、スグリは小さく気合を入れるようによし、と呟いた。

「大丈夫、ゼロから……もう一回やり直せる」

 たくさん迷惑をかけたと思う。見限った人だってきっと大勢いる。それでも、ほんの少しでも手を放さないでいてくれた人たちがいるから、今度こそちゃんと向き合おうと思ったのだ。”これ”はそのための、ゼロの自分になるための決意表明なのだ。
 だから、戻ってきてちゃんとスタート地点に立てたなら。その時は、もう一度彼女とバトルがしてみたい。




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