ただキスがしたかっただけ
「終わった〜〜〜〜!」明日の仕込みを坦々とこなすサンジくんの後ろで
わたしはまかない用テーブルに突っ伏した。
テーブルセット、洗い物、厨房の掃除。
サンジくんに教えてもらった閉店作業の全てが終わった。
「お疲れ様。何か飲む?」背中から愛おしい声。
今日は私のバラティエ営業デビューの日。
今まで水商売しかしたことなくて
慌ただしく動きながら働くのが初めての私は
大した忙しさでもなかったのにくたくたになってしまった。
足が棒のようになってる。疲れた。
けれどお客さんも良くしてくれるし
従業員のみんなも優しい。
足が痛い!なんかの肉体的疲労に比べて
好きでもない男に抱かれるような精神的疲労は9割9分減った。
それに今は、大好きなサンジくんが一緒だしね。
「サンジくん、ありがとう。ごめんね失敗ばっかしちゃって」
「平気だよ。やっぱ女の子がいると職場が華やぐなー!沙羅ちゃんのおかげでモチベーション上がりまくったよ。お疲れのプリンセスには甘いミルクティーかな。寒いしホットにしとくね。」
優しいなあ。幸せだなあ。
ミルクティーの準備をするサンジくんの背中を見てたら
くたくたのはずなのに顔が笑ってしまう。
「12時間振りくらいに2人きりだね。」
ミルクティーをポットにかけたサンジくんがこちらへ戻って来て
色っぽい表情で悪戯っぽく私の前髪を掻き上げた。
キスされる、と思って思わず目を閉じる。
「いたっ」
降って来たのは甘いキスではなかった。
軽く額を小突いて笑ってるサンジくん。
もうこの人は。どう言った心境の変化なんだろう。
絶対、今からキスします!みたいな顔をしてたのに!!
「可愛い」
「もう、意地悪。仕込みは?」」
「終わったよ。やっとゆっくりできるね。」
ニコリと笑って背中にすり寄ってくる。ああ癒される。
そして、
「オレの可愛いプリンセスもさすがに今日はすぐ寝ちゃうかな?」
って耳元で囁きながら腰を抱きにくる。
わかった。この人私の反応見て楽しんでる。
調子良いんだからまったく。
「オーナーに言っちゃおうかな…副料理長にセクハラされますーって。」
「げっ、沙羅ちゃん、勘弁してください…」
ねぇサンジくん。
やられっぱなしは趣味じゃないのよ。
私があなたに翻弄されっぱなしだと思ってる?
きちんと着られたスーツのネクタイをぎゅっと引っ張る。
少し驚いたような顔がこちらへ引き寄せられる。
ネクタイを掴んだまま唇を奪ってしまった。
軽く舌を絡めた後はちゅっ、とリップ音を立てて
もう一度啄ばみ味わい終える。ほんの3秒くらいの出来事。
「サンジくん、私をなめないでね?」
呆気に取られたその顔。してやったり。
多分私今、すごく意地悪な女の顔になってるわ。
ニヤリと笑って彼を見上げた。
「な、沙羅ちゃん…」
それは、セクハラだよ。って
彼は頬を赤く染めながら呟いた。