それは鎖なんでしょう





「なんか今日、伏黒やけにそわそわしてねえ?」
「あたしも思ってた。腹でも痛いわけ?」

朝から何処か落ち着かない様子を見せる伏黒に、虎杖と釘崎は少なからず違和感を抱いていた。腹痛じゃねえし気のせいだろ、とジャージの袖を捲った伏黒は目線を明後日の方向に向けるが、その努力は虚しく散る。

「それはなあ、虎杖...」
「お、パンダ先輩。いやその笑みめちゃ怖いんスけど」
「おかか...」

皆まで言ってくれるな、と伏黒は思ったが、その気持ち半分、知られるのも時間の問題だと諦める気持ち半分。今日という日に1,2年の合同訓練があることが伏黒の運の尽きであった。

「愛しな彼女がなあ、久しぶりに帰ってくるからだよ」

真希はこの上なく楽しそうな表情で虎杖と釘崎に告げた。落ちそうなくらいに目を大きく見開いた2人の様子はさながら漫画のようである。

「っえ!?!!え!?!!か、彼女!?ふっ、ふし、伏黒!?!聞いてねえぞ!?!」
「言ってないからな」
「ハーーー????あたしを差し置いて青春を謳歌するとか100年早ぇんだよ伏黒ォオラ全部吐けや」
「柄が悪いんだよ...」


「っ、名前さん...!」
「恵!ただいまっ」

「真希も棘もパンダも元気そうだね!」
「しゃけしゃけ」
「名前も元気そうだな〜」
「この通りだよ。憂太は一緒じゃないのか?」
「オイ真希、憂太が気になるのは分かるが」
「ウルッッせえな!!!」

相変わらずのクラスメイトのやり取りを目にして、名前は高専に帰って来たことを実感する。そしてその隣にいる見覚えのない2人の生徒については、伏黒との関係性でおおよそ予想がついた。

「隣の2人は、1年生かな?」
「紹介します。虎杖と、釘崎です」


「名前さん、」

手を引いて部屋に入ると、伏黒は名前を腕の中に閉じ込めた。久しぶりに近くにある温度を確かめるように。

「恵。会いたかった」
「......俺も。凄く会いたかったです、名前さん」

名前にとっては痛いくらいの力加減だが、久しぶりの温度をしっかりと確かめたいのは彼女も同じであった。ぎゅう、と背中に回した手に力を込める。

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titled by 朝の病





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