あんまり可愛くならないで





「名前っ!昼食べよーぜ!」

袋に入った購買のパンをぶら下げて教室にやってきた光太郎は、自分のクラスでなくともおかまいなしに通常運転だ。隣の席の木葉は「はは、木兎うるせえー」と呆れている。前の席の子はいつも昼休み教室に居ないので、そこに光太郎が我が物顔で座るのも何時ものことだ。

「はーーー木葉まだ名前の隣なのかよ!ずりーよ!変われ!」
「悪イな〜愛しの彼女の隣、有難く貰ってるわ」

これも何度か聞いているくだり。

「あれ、光太郎お弁当は?」
「3時間目の後に我慢できなくて食った!今からパン食う!」
「中学生かよ」

木葉のツッコミもものともせず無邪気に笑う光太郎はとても高校3年生には見えないが、それが彼らしくて可愛いなあと思う。

「なあ。苗字、何か最近雰囲気変わったよな」

隣の席の木葉は、私の顔をまじまじと見てそう言った。

「え、そう?」
「おう。何だろ?リップ?」
「あー、少し前に新しくした。木葉良く分かったね」

女友達ならまだしもまさか男子にそれを指摘されると思わず驚いたが、木葉は何だかそういうことも目敏く気付きそうなので、何だか納得してしまった。

むすっ、と

「光太郎、?どうしたの」
「......可愛い、けどさあ」
「?ありがとう」
「はは、拗ねんなよ木兎。先言って悪かったよー」

「あのさ」

「あんまり、可愛くならないで」
「えっ?」
「あっいや、違う.......可愛いのはめちゃ嬉しい。俺の彼女可愛いんだぞ!!!!!!!ってめっちゃ自慢してやりたくなるし、良いんだけど、その」
「うん?」
「可愛いのは俺だけの前にしてほしい?っていうか、なんていうかほら、心配になるっていうか、あー、上手く言えねえ!」


「おれ多分そういうのあんまり気付けねえからごめん、でも可愛くするときは、他の奴に見られる前におれに見せて。先におれに教えて」

なんて甘い独占欲。彼がそう言うならば、素直に思っている私もまた、彼だけの可愛い私でいたいのだ。

「.....あとせっかくかわいくしてんのに、ごめん」

少し深妙な声色に顔を上げると、ぱくり、と彼の唇が私のそれを啄んだ。






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