砂糖で煮詰める





190cm近い図体は流石に改札前に立っているだけで目立つし、お陰ですぐに見つけられる。周りにも待ち合わせをしているのであろう人はたくさんいて、みんなスマホに目線を落としているが、若利は微動だにせず真っ直ぐ前を見ていて。それが改札前の光景の中で少し浮いていた。

「若利、お待たせ」
「ああ」

私を視界に入れると、先程まで微動だにしなかった瞳が少し大きくなった。

「髪、変えたのか?」

切ったの?染めたの?ではなく、変えたの?というざっくりとした問いかけな辺り、若利らしいなと感じる。

「うん、正解。染めて少し整えただけだけど、よく分かったね?」
「そのくらいは俺でも分かる。流石に化粧のことなどは分からないが」
「それはハードル高いね...」

メイクのことを若利に指摘された日には、驚いてひっくり返ってしまいそうだ。髪でも、服でも、メイクでも、いつもと雰囲気が違うな、くらいに思ってくれたら。あわよくば、可愛いなって思ってくれたら。

「...似合っているな」

毛先をひと束、骨張った若利の指先が掬った。そうまじまじと言われることもないので、ちょっと戸惑ってしまう。

「あ、ありがとう...」

若利の目線はずっと私に注がれており、毛先、根元、耳元、と視線が彷徨っている。毛先を掬っていた指先は、掬った束を上下させて遊んでいる。

「そんな見られたら、穴あく...」
「...それは困る」

笑みをこぼしたあと、私の右手が若利の左手と繋がれた。見たいお店があってこの駅での待ち合わせとしたので、その方面に向かって歩き出す。休日なだけあって駅構内はそこそこの人混みだった。

「本当はもう少し短くしようかなって迷ったんだけど。どう思う?」
「...どちらでも良いと思うが」

漫画やドラマなら、どうでも良いってこと!?と彼女が怒りそうなシーンであるが、恐らく若利のこれは本当にどちらでも良いから言っているやつだ。

「どちらでも良い、というより」
「?」

一度ゆるんで、ギュ、と手のひらが握り締められる。

「名前なら、何でも良い」

まったく、これを素で言っているのだからたちが悪いというものだ。

「若利、他の女の子にそれ発揮しないでね...」
「......?名前だけだが? 」
「はあ......」

ナチュラルにこの調子、まったく先が思いやられる。まあそれも、私がこの手を離さずにしっかりと掴んでいれば良い話だ。

「洋服もちょっと見たいな。付き合ってくれる?」
「ああ。時間があれば、俺のも選んでくれ」

有難いことに若利は服のこだわりがあまりない。せっかく背も高くてスタイルが良いのだからとびっきりのを選んであげよう、と思ったが、私も大概に若利なら何でも好きだな、と独りごちた。





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