ピアスホール
この年齢にもなると結婚式にも度々呼ばれる機会が出てきて、その度にご祝儀貧乏を憎みながらも、いざ参列すると幸せにこころを満たされる。仲の良い友人や、学生時代の同級生などであればなおさらだ。
「みんな順調に歩んでいくね...」
「それね。置いて行かれる感.....」
今日の結婚式は高校の同級生同士のもののため、二次会はほぼ同窓会と化していた。ただ元々交友関係が広いタイプではないので、久しぶりに会う友人と会場の隅っこでしっぽりとつまみながら飲んでいた。
「あれ、もしかして苗字さん?」
「......?え、海野くん?」
「やっぱりそうだ!益々美人になってて、声掛けるか迷ったわ」
声を掛けられて思い出したが、海野くんは高校の時からこの調子だったな。苦手とかではないけれど、とにかく軽いのだ。
「海野、口説こうとしても無駄よー、この子ハイスペック彼氏が居るから」
「ハイスペック彼氏......」
間違いでは、ないが。当の海野くんは「マジかー無念」と頭を抱えている。どうせそこまで本気で言っていないだろうけど、この調子の良さは気楽でいい。
その後は順番に色んな人とただの近況報告会をする形となり、宴もたけなわ、程々の時間に解散となった。カラオケや三次会に行く人もちらほら居たようだが、誰かさんが拗ねてもいけないので帰路につくことにする。適度に入ったアルコール、春の夜風が少し冷たくて心地良い。
「苗字さーん」
「あれ、海野くんカラオケは?」
「明日早いから辞めた!駅まで行こ」
「うん」
用事があるという友人と別れて駅に向かおうとすると、後ろから声を掛けられる。海野くんのこの人懐っこさというか、距離の詰め方は本当に才能だなと感心する。仕事のことやプライベートのことも、お喋りが上手いので何だか話せてしまうのだ。
「そうなんだ、仕事大変そうだね...あ、れ?」
「ん?どした?」
「いや、その」
「名前。迎えに来た」
何故ここに若利がいるのだ。ここは結婚式場の最寄り駅、家までは30分くらいかかる。わざわざここまで迎えに?
何かを察したらしい海野くんは、流石と言ったところか、挨拶をして上手く交わしてくれた。
「あ、もしかして彼氏さんですか。同級生の海野です」
「牛島です」
「どうも。偶々駅まで一緒になりまして、俺はここで失礼しますね!苗字さん、またそのうちね」
「う、ん。またね」
海野くんを見送り若利に目線をやると、自分から来たくせに何だかバツの悪そうな顔をしている。
「びっくりした。真っ直ぐ帰ろうと思ってたけど、どうかした?」
「いや......」
いつになくハッキリしない態度の若利が、ゆっくり近付き、左手をゆっくり持ち上げてわたしの左耳たぶを摘んだ。
「えっ、なに」
「ちゃんと付けているな」
ああ。ピアスのことか。これは数日前一緒に買い物に出た時に見つけたもので、自分が買うから結婚式に付けて行ったらどうか、と買ってくれたものだった。「ちゃんと付けているな」って、あれは本気で言っていたのか。
「ちゃんと付けていったよ」
「そうか」
何故か満足気な顔をした彼は、親指と人差し指でまだ私の耳たぶを触っている。
「そんなに触られると気になる...そんなに気に入ったの?」
「ああ。似合っているのも、あるが」
俺の、という感じがする。
「これを触れるのは、俺だけだな」
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