アイスクリーム・ロマンス





「コンビニ寄るでしょ?」
「寄る!アイス食べたい」
「ククッ、そう言うと思ったわ」

偶に、仕事終わりの金曜に軽く飲んで、2人で住む部屋に帰ることがある。行き付けの居酒屋を出た瞬間から、鉄朗は毎度ゆるりと私の手のひらを掬って繋いでくれる。そのままゆっくりのんびり歩いて、帰路にあるコンビニに寄るのも何時ものこと。

「やっぱりバニラ...あっこれチーズケーキのやつ...鉄朗決めた?」
「まだ決めてなーい」
「うう、どうしよ...」
「その2つで良いじゃん。俺何でもいーし」
「私の彼氏、もしかして優しい...?」
「今更過ぎて悲しい」

照れ隠しのようになってしまったが、鉄朗が優しいことなんて充分過ぎる位に知っている。買ってくるわ、と言ってくれた鉄朗な会計はお任せして、コンビニの外で待つ。次は私が買おう、と考えながら。



「おーーい」

ゆさゆさ。自分の身体がゆっくりと揺れるのが分かる。

「ん......」
「おーーい。ここで寝るな」
「んん...もう出たの......」
「とっくにネ。名前チャンもさっぱりして来なさい」

飲んで、家でアイスを食べて、そのまま寝てしまうのもいつもの流れ。仕方がないから鉄朗が先にお風呂を済ませて、あがってきた鉄朗に起こされるところまでお決まりだ。髪を乾かすことを考えたら私が先に入った方が良いに決まっているのに、無理に先に起こすことはしない。

「ねむい...」
「だろーね、名前いつもより飲んでたし。最悪髪は明日でいーじゃん」
「そうする...ドライヤーできる自信ない」
「ん、そうしな。待ってるから」

ぽん、と私の頭に手を乗せながらそう言われてしまっては、入らない訳にはいかない。時刻は日付も回って暫く経った頃なのに、目の前の恋人は寝ずに待っていてくれるというのだから。

いざお風呂に入ると頭からシャワーを被って、居酒屋で付いた少しの匂いも残らず洗い流してしまいたくて、結局髪も洗ってしまう。うたた寝もしたからかちょっとだけ目も冴えてくる。

あがって脱衣所で肌の手入れをしていると、歯磨きしに来た鉄朗が「結局洗ったんかい」と呆れて笑いながらドライヤーを手に取った。乾かしてくれるらしい。人にやって貰うのはどうも眠くなっていけないのに。

「鉄朗に頭触られるの、ねむくなる...」
「あとちょっと頑張ってー」

手先が器用な彼はパパッと済ませてくれて、あっという間に寝支度が整った。一足先に布団に潜り込んでいた鉄朗が布団をがばりと片手でめくり、とんとん、と自分の隣のスペースを叩く。吸い寄せられるように腕の中に潜り込んでしまうともうだめで、鉄朗の体温が溶けてくる感覚と、急に襲ってくるおおきな睡魔。

「......名前」
「ん、」

恐らく私の目はほぼ開いていないだろうが、どうにかまだある意識で顔を持ち上げると、ふにゅり、と柔らかいものが口元にふれた。と思ったら流れるように首元に顔を埋められて、毛先が当たって擽ったい。いつもツンツンしているたてがみは、お風呂上がりで少し垂れて柔らかくなっている。

「ん、てつろう、」
「ンー」
「くすぐった、い」
「ウン」
「する、の?」
「ンー......」
「ひゃっ」

ぺろり。

「かわいーね。名前今にも寝そうだし、しねーよ」
「うん......」

くしゃり。

前髪を撫でられて、おでこにまた唇が降ってくる。今の関係になる前は意地悪も言うしどこか掴み所がない人だと思っていたが、意外と愛情表現がストレートなことを知ったのだ。

「おやすみ、名前チャン」
「...ん、おやすみ...」
「明日は、イチャイチャしよーね」
「...........ん」
「ククッ、絶対聞いてねーな」

おやすみ、と言った瞬間に私の意識は落ちてしまった。夢の中でも鉄朗の声がきこえた。





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