一松と猫の日

「ねえ、何してんの。別に、ソコ撫でられても気持ち良くも何ともないんだけど」

唐突に名前を呼ばれたので何の用かと思えば、俺の顎を指先で撫で始めた彼女。少しこそばゆい様な感覚は有るけど、猫でもあるまいし、特に撫でられて心地良いという訳でもない。そう言うと、何故か彼女は意外そうに目を丸くした――いや、むしろこっちとしては、その反応が意外なんだけど。

「一松くん、猫になれるって聞いたから、撫でられるのも好きなのかと思って」

それは、きっと兄弟の誰かが面白がって漏らしたんだろう、下らない話。後で尋問にかけてでも誰が犯人か吐かせて、クソ松だったらその場で殺そうと心に決める。別に撫でられる事自体は嫌いじゃあない、何だかんだ同い年だって言っても六つ子の四番目、どちらかといえば俺も弟に属している。ただ、顎を撫でられるのが好きかと問われればそうでもないというのが、人として当然の答えだと思う。
懲りずに、今度は俺の咽喉仏まで指先でなぞり始めた彼女は、肝心の大前提を忘れている。ねえ、猫は雑食ってよく言われるけど実際は肉食獣なんだって、お前、知らないの。無防備な獲物が自ら噛み付かれに来ているのを見逃してやる良心や理性なんか、猫は持っていないんだから。俺を猫だってお前が言うなら構わない、とことん、猫に成り切ってやろうじゃないか。

「あーあ、そんな撫で方じゃ、駄目だね。……俺の、もっとイイトコロ、知ってるでしょ?」

「っ、一松くん、」

ようやく自分が被食者として追い詰められてる状況に気付いたみたいだけど、時は既に遅し、だ。残念ながら、俺は大して従順でもない気紛れな猫だから、「待て」なんて出来ないんだよね。欲望のまま、目の前で美味しそうに震える唇にしゃぶり付けば、隙間から吐息の様な喘ぎが零れた。ああ良いね、やっぱり俺みたいな男よりお前の方がよっぽど、可愛がられる姿が様になってるよ。顎の下を緩々と撫でてやれば、とろんと瞳を蕩かせた彼女が応える様にして、「にゃあ、」と小さく啼いた。

(遅刻ですが、ニャンニャンニャンの日という事で)

2016/05/03 01:47


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