おそ松に無理矢理キスしてみる

日溜りの様な、手放し難い温もりには中毒性が有って、叶うならば、ずっと浸っていたかった。それでも、その温もりの所為でどんどん腐ってゆく心は逆に、悲鳴を上げ続けている。当然、縁という薪だって腐っているから、浸かる微温湯は何時まで経っても沸きやしないのだ。そう、自らの手で火にかけ、沸かそうとしなければ。
ここらで本格的に沸騰させて、いっそ全て溢れて蒸発してしまえば良いと思った。年季の入った重い想いは、もういい加減にキャパシティオーバーで、私には抱え切れない。強火で焚いて、鍋の底に残った僅かな水滴さえ蒸発させてしまえば、楽になれる。執着、嫉妬、愛、――陳腐な呼び名の付いた感情なんて、何もかも気化させてやりたかった。

「ねえ、おそ松、」

幾らか精悍な顔付きになったけれど、目の前の間抜け面には、あの幼き日の面影が強く残っている。何時か、私が灼け付く様な激情を自覚した日よりも、もっと以前の。「どうしたの」って、彼の口調はどこまでも軽々しくて、本当に、昔から変わらない。私達の関係が変わらない、変われないのと同じで、その上で尚も私が心を変えられないでいるのを皮肉るみたいに。
悔しくて、腹立たしくて、半ば反射的に彼の赤いパーカーの裾を勢い良く、引き寄せた。ぶつかる様に重なる唇と唇、彼が零した驚きの吐息さえ拾い上げて、隙間から舌を捻じ込む。これまで実際の行為に及んだ事も無かったから、口付けの正しい作法などは知らない。ようやく沸き立った想いは限界まで沸き立たせて枯らすと覚悟を決めたんだ、上手く出来なくたって、上々だ。

「……っ、は、」

その、艶やかで色っぽい溜息も、淫靡な熱の篭った瞳も初めて見るものだ。男として意識していた筈の彼に対して、これ程までに"男"を感じた事は、未だ嘗て無かった。ずくり、と心の底から湧き出た新たな水が、嵩の減った鍋を満たそうとする。こんなに強い情熱を以て沸かしても、枯らすに追い付かない想いはやっぱり、私には重過ぎる。

「好き、……おそ松、好きだよ」

目尻から思わず零れたそれを、眼差しの熱で枯らして、乾かしてくれたら良いのに。そうっと、指先で優しく掬い上げる彼はむしろ、優しくないと思う。私が抱え切れない程の想いを、持ち上げる動作がどこまでも軽々しくて、だからこそ縋りたくなる。何だか、沸き立つ熱湯にさえ永遠に浸かっていたくなってきて、とんだ阿呆者だと自嘲した。ミイラ取りがミイラ――よりももっと悪い例えだ、これは。

「、良いよ。ずっと俺の事、好きでいてよ。そうやって、持て余すくらいに」

私が後生大事にしていた大きく頑丈な寸胴鍋を軽く持ち上げ、挙句に容易く中身を飲み干す彼の慈悲深さは、筆舌に尽くし難い。一周回って残酷な様にも感じられるのに、私は懲りず鍋に微温湯を注いでしまうんだ。そして何時の日か、腐った薪をくべて再び心を沸かすのだろう――決して、想いを枯らせはしないと知っても。生産性の無い、無為な恋だと理解しても、鍋そのものを捨てられない時点で"詰み"だという事には、気付かないままでいたかった。

(無理矢理キスしてみた診断メーカーより)

2016/05/03 01:50


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