修道女と悪魔おそ松
※悪魔設定、下品な表現有り
キッ、と睨み付けてくる瞳は未だに強い輝きを宿していて、視線の鋭さが矢であったなら間違い無く射抜かれていただろう。実際には矢ではないから射抜かれもしないし、たとえ射抜かれたって死にもしないから、何も問題は無いんだけど。にやにやとした笑みにそう含ませてやれば、目の前の女は一層、唇を固く引き結んだ。血と汗の滲む生意気な面をもっと歪ませてやりたい、いっそ精液でもぶっかけてやりたい、なんて思うのは悪魔としての本能だ。
鴉の羽根と同じ色をしたスカプラリオの裾は既に破れて、見るも無残な有様だ。胸元に掲げた純金のロザリオを強く握り締める手にも血が滲んでいるのに、一向に神の救いはもたらされない。縋るものも何も無いこの最悪な状況下で、一体、彼女は信仰を何処に定めているのだろうか。健気というよりはいっそ狂気的で、だからこそ、本来は相対する存在であるのに惹かれてしまうのかもしれない。
「そんな可愛い顔しないでよ」
虐めてやりたくなるからさあ、と彼女の不快感を煽る様に笑うのも、勿論、わざとそうしている。今にも地に倒れ伏しそうな華奢な身体がそうならないよう、絶妙に手加減して嬲るのも。本当は、スカプラリオを原型が分からぬ程に切り裂いてしまう事も、純金のロザリオを真っ二つに叩き折ってやる事も、俺にとっては造作も無い所業だ。花を手折るのは簡単だが、つまらない。逆に、花が枯れゆく様をじっくり観察しているのは難儀だが、面白い。
「最低な悪趣味だ」
修道女らしからぬ、穿った口調で俺を罵るのに必死な女は、自分の気高さが失われていっている事に気付かない。何時か同じ様に、かつて信じていた神へ向けた謗りも聞けるのではないかと想像すると、興奮でどうにかなりそうだ。そうやって、自覚しないまま堕ちてしまえば良い――俺の居る所まで。
「そりゃまあ、俺は悪魔だからねえ」
さも当然だと言わんばかりに肩を竦めて見せると、彼女はこの上無く悔しそうに、辛そうに歯噛みした。俺が悪魔である事の何が気に入らないのか、疑問に思った日が彼女の修道女としての命日だ。きっと、もう彼女の信仰は何処にも定まっていないのだろう。千々に破れたスカプラリオの裾は生温い風に吹かれ、所在無げにゆらゆらと揺らめいていた。
(君に恋したあの日から診断メーカーより、「そんな可愛い顔しないでよ」)
2016/06/23 06:45
ALICE+