修道女と悪魔おそ松(2)
※悪魔設定、前記事の続き、相変わらず下品かも
これで幾度目になるか、その日、俺が愛しの修道女の元を訪ねたのは、迷える子羊どもの礼拝も既に絶えた深夜の事だ。朝から降り続いた小雨は辛うじて止んでいたが、相変わらず重い黒雲が夜空に帳を下ろしていて、月明かりも星明かりも地へは届かない、そんな夜。遠くの方から聞こえるゴロゴロという雷の残響は、さぞ人の子の不安感を煽るものだろう。当然だが、人の子でも神の眷属でもない、むしろ対照的な存在である俺は、こういう夜の方が好きだ。
「よおシスター、こないだ振り〜。怪我の経過はどんな感じ?もう治ったと思って、また遊びに来てあげたよ」
湿気に因ってべったりと肌にへばり付くのが不快なのか、教会の礼拝堂を箒で掃く修道女は、はしたなくもスカプラリオの裾を膝上まで捲り上げていた。その方が動き易く、舞い上がった埃や汚れが余計に付着せずに済むから、という如何にもな理由も有るんだろうけど。何時もは厚手の黒で覆われた、白く細い生足が夜の暗闇にぼんやりと浮かび上がる様が、何とも言えず淫らだ。陶器の様に滑らかな手触りだろう柔い肌に爪を立てて、真っ赤な線を描いてやったら、また飛び切り愛らしい表情を見せてくれるに相違無い。もしくは、白に白を重ねても美しいかもしれない――なんて、下卑た妄想を巡らせてしまうくらいには、情欲を駆り立てられる光景だった。
「そんな、えっちな恰好しちゃって。シスターったら仮にも聖職者のくせして、いけないんだ」
それがどんなに俊敏な動きでも、彼女が身構えるよりも俺が距離を詰める方が、ずっと早い。胸元のロザリオを掴もうとした彼女の右手を先回りして引き寄せれば、非力な身体は容易く傾ぎ、俺の腕の中へ収まった。嘗て無い程に近まった鼻先、驚きに見開かれた大きな瞳には俺の姿しか映っていなくて、それが堪らなく興奮する。思わず、ふっくらとした薄紅色の唇に噛み付いてやったら、舌を潜り込ませた隙間から艶を帯びた悲鳴が零れた。
やがて、抱擁から逃れようと身じろいだ彼女の足が、地に落ちたウィンプルを踏み付ける。それは、彼女にとってはきっと、神への冒涜にも等しい行為だ。胸元に提げられた、ゆらゆらと揺らぐ純金のロザリオを見下ろして、得も言われぬ優越感に浸る。いずれ、その聖職者の証が単なる装飾品にも価値を劣らせるだろう事は明白で、愉快だ。あられも無く剥き出しになっている太股に右手を這わせれば、想像通り、すべすべとした触り心地をしている。無垢な白を穢す様に、塗り潰す様に、俺は情動のまま爪を立てた。
「だから愛さずにはいられないんだよねぇ、君の事」
「っ、……、ふざけないで!」
徒人の子が振り被った平手を避ける事にも、或いは制止する事にも、何ら苦は感じない――だって、俺は悪魔だから。「ふざけてなんかいないよ」と囁けば、すぐ目の前に在る女の顔から、分かり易く血の気が失せる。今にも泣き出しそうな、苦しそうな表情は相変わらず可愛くて、いじらしくて、彼女の太股をなぞる指先に力を込めた。俺が壊れそうな程に強く抱き締めている所為で、彼女は胸元のロザリオにも足元のウィンプルにも、手を伸ばせないでいる。最早、縋るものなんて此処には俺の腕以外に何も無いのだと、悟ってしまえば楽になれるのに。
「早く、その狂気を俺に向けてよ」
妄信的で独り善がりな信仰を愛欲に変えて、神ではなく俺に捧げるようになれば良い。哀れな人の子を救ってくれもしない、哀れな人の子には居るかどうかも分からないであろう神なんかより、今、この場所に存在している俺に信を置く方がよっぽど、建設的だと思うんだけど。世界の其処彼処に坐すマリア像は単なる無機物に過ぎないのだと、さっさと気付いて欲しい。底へ堕ちかけた彼女の狂信を救い上げる様に飲み込む様に、もう一度、薄紅色の唇を塞いだ。「教会で交わすキスの相手が悪魔なんて、皮肉だね」という適当な揶揄にも反応し傷付いてくれる彼女は、やっぱり凄く可愛くて愛おしかった。
(愛してると伝えたら診断メーカーより)
2016/06/27 22:13
ALICE+